強がり
「……なんだ、これ」
「今度はどうしたってのよ勇気!」
勇気と涼はダッシュで通りを走っていた。傘を差しているがそれが意味をなさないほどに、雨の街を、全速力でだ。目的は、勇気の耳が捉えた異変を確認すること。それにその異変には、琴音が関わっているかもしれないのだ。何故なら、勇気が最初に耳に捉えた絶望の音の所在は、ほとんど琴音の家と同じ位置だったから。
だが、勇気は走っている途中でまたも足を止める。耳の捉える感情の音に、変化があったのだ。それを、後ろをついてきていた涼に伝える。
「分からない……最初は琴音の店だろう場所から、絶望を感じて……それを持った奴は移動し始めたんだ。だけど、しばらく走ったら悲しみはじめて……止まった。んで少ししたら、悲しんでた人間に、すごい心配を持った……妖怪が近付いた。直線的にだ」
「妖怪……? ……ぶつかったの、二人は?」
「あ、ああ。したら、なんか二人共、すごい安心と満足の色を奏でて……この分なら、まだ余裕があるかも……」
勇気は状況の説明をした。
要して言おう。自分が捉えた絶望の音を持った人間は、しばらく行くと悲しみ始めて足を止めた。すると、そいつに近寄る心配を持った妖怪。その妖怪は住宅街を直線的に、つまり家々を飛び越えて悲しみを持った人間に向かった。そうして二人は会うと、そろって安心をした……。
マーレと琴音である。
涼はそれを察する。元から、琴音の店からの絶望の音という時点で、彼女自身か母親の可能性が高かった。そうして、妖怪に関係があるとすれば琴音だろう。
だが、それを察した涼は決して、明るい表情はしなかった。
「違う!」
彼女がしたのは、圧倒的なまでの焦燥の顔だ。そうして、勇気に走るように促した。
「ヤバい。さっさとそいつらのとこまで案内して!」
「え、どうして……」
「走ってる間に説明するから、早く!」
「あ、ああ。分かった……」
涼の必死な様子を受けて、勇気は先を走り出す。雨は、二人に強く降っているように思えた。そんな中で、勇気の後ろをぴったりとついて行きながら涼が勇気へ説明する。つまり、焦っている理由だ。
「多分、アンタが最初に言ったように店から飛び出したのは琴音だと思う。それでだけど、こんな住宅街を突っ切って飛んできたのはマーレ。どうやってか知らないけど、アンタが感じた異常をあいつも感じたらしいわ」
「そうか……だが、それがどうして……」
勇気は走りながら、首を傾げる。なんで、危険な状態にあるはずの琴音に、マーレが会いに行ってはまずいのかという事。
その問いに、涼は頭を抱えながら答える。
「過程はどうでもいいんだけどね。どうやって知ったかとか、琴音が何で傷ついたのかとか。結果から言えば、琴音は今、大丈夫なんだと思う。マーレが行ってあげたから……でも」
溜めに溜めた後で、涼は中心を口にした。
「吸血鬼は水の中を本来通れない。通れるけど、相当に無理をしないといけないの。つまり……本来マーレはこんな雨を、外に出歩いちゃいけないの!」




