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セカンドライフを妖しい怪しさ達と共に  作者: 井田薫
紡ぎ直される琴の弦
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偶然

「勇気の……急になんだったんだろうな……まあ、とにかく急ぐぜララ!」


「うん!」


 鼬とララは、雨の中を傘を差したままで走り抜ける。だが、二人は肩の辺りがはみ出して雨に濡れるのを気にしない。急いでいたのだ。これは勇気が二人に対して琴音の母親の店へと向かってくれと指示した後。二人が急いでいたのは、つまり、ともかくただならない現状があるということをにわかに感じていたからである。

 二人は勇気のことを信用している。だからこそ、急に意味がハッキリとは分からないことを言われても、信用し、彼と同じように走ったのだ。


 そうしてしばらく、あと一つ角を曲がれば愛音の店へ辿り着くという所に二人は差し掛かった。


「あそこ曲がりゃあ琴音の店だ!」


「琴音……いるのかな」


「行ってみなきゃ分かんねえ……ただ……ヤバいのかもしれねえ。ともかく行ってみない事には分からない、行くぞ!」


「……うん!」


 二人は互いに互いの不安を共有し合って、なおも走り続ける。不安なだけじゃなく、実質的に不幸になってしまっているかもしれないのだ。琴音が、二人の仲間が。だから、走り続けた。


 二人は最後の角を曲がる。そうして、二人が目にした光景は……両者にとって、驚愕するべきものであった。特に、鼬は。


「……あれ、天翔さん?」


「それに……先生!?」


 二人の目の前には、こういう光景があった。暗い目をした二十後半か三十前半くらいの男二人が、土砂降りの雨の中、傘も持たず体を向き合わせて地と天を睨んでいる。

 片方の男は鼬とララの両者にとって親しい、天翔。彼は天を睨んで、歯を食いしばっていた。加え、もう一人の男。それは鼬にとっては毎日見るような顔だった。つまり、飯田。彼は地を睨んで、頭を抱えていた。


 だが、その男二人は鼬とララの言葉を聞くとそちらに振り返る。そうして……












「ぬぁっ!? かっ鎌田、だと!?」


(ど、ど、どうしてこんなとこに!? とっ、ともかく、まずい……!)


 飯田は土砂降りの雨の中でもわかるほどにハッキリと、冷や汗を浮かべる。それほどまでに、彼は焦燥の感情を抱いたのだ。

 彼の視線の先には、鼬とララがいた。いや、意識の中にあるのは鼬だけだが。彼がそこにいることが、飯田にとっては重要な問題だったのだ。


 だが、飯田が焦燥の念に頭を支配されるのに関わらず、状況は回る。


「鼬、ララ? どうしてこんなところに……」


 天翔が、鼬とララに目を向けて首を傾げたのだ。彼にとっても、この状況は理解が追いつかないほどのものだ。行きつけのラーメン屋に入ったら、妙な男が現れて、なんやかんやあって和解した後、急に自分が世話をしている子供達が現れたのだ。文字に起こしてみれば、もっと意味が分からない。なんやかんやという言葉の中には戦闘もあるのだし、琴音と愛音のこともある。

 当然、鼬とララにとっても混乱する状況だ。琴音が何やら危険な状況かもしれないと走って彼女の店に来てみれば、自分達の親的存在。そして鼬限定だが、教師がそこにいる。……分からない。


 だが、疑問は当然、焦燥の色が一番濃かったのは、断然、飯田であった。彼は目を見開いて、鼬に目を向ける天翔を見た。


(はぁッ!? ここ、こいつ鎌田と知り合いなのかッ! ……ど、どういう状況……い、いいや違う。問題は……)


 と、彼が思案している時だった。


「え……先生、それ、何だ?」


 鼬が声を上げる。彼の目線は……飯田が手に持っている物へ向けられていた。


 忘れているかもしれないから、ハッキリと書いておこう。飯田が持っていたのは、血の付いたナイフである。それも、人を傷つけるための大きさ、形状をしたもの。加えて、天翔の手には血が……


 まるで鼬とララには、飯田が天翔にナイフを突き立てたように見えただろう。それを察した飯田は……


「しまっ……こ、これは……」


 あたふたとして、何も言えなくなってしまう。焦りの極致に立つと、どうしても口が回らなくなってしまうあれだ。

 だが、そんな状況でも飯田は次の行動を決める。いや、苦渋の決断と言うべきか。


(……やむを得ない!)


「鎌田!!」


「えっ?」


 決断を決めた後の飯田の動きはスムーズだった。彼の決断、取った行動とは……


「お前の夢は、自分の愛している人と永遠をキャッキャうふふして過ごすことだ!!」


 鼬の夢を暴露することだった。それは、バラされた者を赤面させ、周囲の者に好奇の目を向けさせる、という目的を持った行動。

 つまり、状況はこうなるのだった。


「どわああァァァぁぁぁ―――っ!!! 先生いきなり何言ってんだッ!!?」


「え、鼬……」


「お前……」


 鼬は恥じらいから悲鳴を上げ、ララと天翔は興味津々という様子で鼬の顔を覗き込む。つまり、飯田から一瞬ではあるが、気が逸れたのだ。


 その一瞬の後、すぐに鼬は正気を取り戻し、ハッとする。つまり、今はこんなことに気分を右往左往させている場合ではないという事。正気に戻ると、その目は飯田の方へ……


「なっ……違っ……って言うか、今の問題は……! って、あれ」


 否、飯田がいた方へ。


 その場からはすでに、飯田は煙のように姿を消していた。鼬に次いで正気に戻ったララと天翔は、雨の中、鼬の言葉を受けて辺りを見渡す。つまり、さっきまでいた飯田という男を探すのだ。だが、見当たらない。


「い、いつの間に……」


 鼬は開いた口も塞がらないという様子で、飯田がさっきまでいた所へ目を向けた。遅れて、天翔とララも首を傾げる。


「ほ、本当だ。全然、目にも入ってなかった……」


「……ミスディレクション、か。鼬の夢を話したのは、私とララの気を逸らすため……というか」


 天翔は正気に戻った。それはつまり、頭も冴え、今目を向けるべきこと、解決すべきことを見据えたということ。彼は鼬とララの方へ向き直って、言った。


「……状況を整理しよう。分からないことだらけだ」










「……まったく、クソ。鎌田、堀田……鎌田と堀田……すーっ……むぅ……」


 ナイフをしまって、飯田は雨の中を一人で歩いていた。そうしながら、思案する。さっきのこと、いや、自分が助けようとした琴音という存在とさっきの状況の関係を。

 だが、その結論は意外にも、彼の物騒な様子とは全然、かけ離れた所に行きつくのだった。


「……堀田はあいつに惚れてるよなぁ? いやまさか、まさか……堀田と鎌田……。なくは、ないのか。だから、家に寄ろうとしていた。……金髪の少女は……ん? あいつ、三人も……いや、いいやないだろ。鈍臭いあいつに限って三人も……有り得ん」


 なんとも、平和ボケしていそうな結論であった。


 だが、彼の目的は、決して真面目を外れない。寧ろ、一つを貫いた正義であった。


「ともかく、子供達が幸せでいられるように……。徹底する。一縷の可能性さえ、潰さなくては」


 飯田は死んだ目をして、土砂降りの雨の中を歩いた。

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