目の前に
「ん、ん~! やっぱり勇気の料理はおいしいね~」
「はぁ……ララ。お前も料理、したらどうだ?」
勇気は自分とララの昼ご飯に、簡単にカレーを作った。ララはそれを口に含むと、表情をとろかしてそのおいしさに呆ける。それほどまでに、勇気のカレーはおいしかったらしい。
だが、ララのそれを見る勇気は呆れきっていた。そうして言ったのは、お前も料理をするべきだということだ。
今まで、料理を作ってきたのはずっと勇気だったのだ。妖館に来てから、彼は住人の分を全部作ってきている。他の人間は、たまに自分のを作るくらい。それも当然だ。涼達3人には学校があり、太三郎と天翔には用事がある。
しかし、勇気とララは特殊なのだ。ずっと妖館にこもっている。だからこそ、勇気は料理くらい作ったらどうだと言ったのだ。
だが、ララはそれに不満げに頬を膨らませた。
「いいよー。勇気が作ってくれるしさ」
「はぁ……聞いた話だが、料理が作れないとモテないらしいぞ」
「ぶん殴るよ?」
「ああ……あ?」
勇気は首を傾げてララの言葉を思い返す。ぶん殴る……そんなことを言うとは……
「別にモテなくてもいいし。男なんていらない」
と、勇気がそんなことを考えている暇もなく、ララはぷいとそっぽを向いた。本当に、勇気のさっきの言葉にイラっと来たらしい。
そんなララを見て、勇気は自分の言ったことがそんなに気を悪くさせただろうかと首を傾げながら、息を吐くのだった。
「はぁ……そうか。まあ、そうだな……」
「さて、今日は早めの解散だ。五時間目で終わり。じゃあな」
涼達の通う中学校、その教室のうちの一つ、教壇の上で飯田はそう言った。その日は飯田の言った通り、学校は五時間目で終わり、下校の時間だ。彼はそのことを生徒に伝え終えると、すぐに外へと体を向けた。
その時に、チラと、琴音に目を寄こして思う。
(一応、見ておくか)
「さて、じゃあ帰って少ししたら、私と鼬、それに勇気とララも行くわ」
「ああ……。ってか、既に涼達にも話してたんだな、マーレ」
「ええ。私は手が早いから」
雨の降っている中での帰路、涼、鼬、マーレ、琴音の四人は話し合いながら歩いていた。会話の内容は、マーレが琴音に話した、放課後に彼女の母親の店を手伝うという話だ。それについて、少し詳しく。
そうしてそんな話をしていると、琴音は一人、俯く。そうして口にするのは、やはり……
「悪いな。こんなに心配してもらってよ……」
そういう、謝罪めいたものだった。だが、それを受けても涼達は全然、顔を曇らせない。鼬は、顔に笑みを灯して琴音に言ってみせる。
「大丈夫だぜ?」
「…………え」
「ダチを心配すんのは当然だ。困ってるなら、助けるのが普通だ。俺らはよ、勝手にやろうとしてるだけだからな」
そう言う鼬には、明るい優しさがあった。天上から降ってくる雨を、全て払い切ってしまうような、そんな眩さ。それを受けて、琴音は表情を緩ませる。
「ああ……ああ! ありがとな、涼、鼬、マーレ!」
そうしているうちに、岐路がやってくる。琴音と、妖館の住人との帰る道が分かれる岐路。その前に来ると、琴音は三人の方へ笑顔を向けて、言った。
「じゃあ、待ってっからさ。本当に……ごめ……いや、いいや! ありがとな、待ってるぜ!!」
そうして、彼女は走り去っていく。朝と同じように、傘から肩をはみ出させて。その様子は、そんな彼女は、本当に、本当に……
琴の音が鳴り響く。雨の中に、元気に鳴り響いた。
(……いいんだ。これでいい。これからは……頼ろう。……そういえば、“あのこと”)
琴音は傘を持って走りながら、少しだけ暗い顔をした。あることを思い出したのだ。それは、先日の事。そして、早朝の事。つまり、あることで稼いできた金を愛音の財布に入れたことだ。
(今考えてみれば……母さんが気付いて心配してるかもしれない。帰ろう、さっさと。すぐに帰って、謝って。前を向いて、走るんだ)
だが、それでも前を向いて、彼女は笑うのだった。




