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弦が、切れる

「あれ……お、おかしい。なに、これ……」


 一方、愛音。彼女はラーメン屋の上階で、家計簿をつけようととりあえず自分の財布を開いていた。その瞬間に、気付いた。というか、開くより前にその厚さで、だ。


 明らかに中身が多いということに。


 嫌な予感を感じた愛音は、財布のチャックを一気に開いて中身を見た。すると、札を入れておくポケットに、明らかな異常を目に留める。一万円札が、多すぎる。家計簿を見るまでもない。 

 それを見た愛音は、喉と、背に何か冷たいものを感じた。


(……誰かが、入れた)


 もしかしたら、ストーカーか何かが自分と琴音の境遇に同情し、こんなことをしたのかもしれないという考えに至ったかもしれない。だが、そんな考えよりは随分と現実的な予想に愛音は辿り着いた。


(琴音……)


 つまり、家の者が何か手を加えたのではないか、ということ。それを感じた愛音は、さっきまで感じていた悪寒より、更にもっと深いものを心の奥に落とす。それは、黒い黒い何か。黒すぎて、泥に入っても見分けがついてしまうような、真っ黒の……。


 外では、土砂降りの雨の中に稲妻が光った。それは愛音の心の中の黒い何かを強調するように、彼女の頬を真っ白に照らしたのであった。照らされていない方の頬は、真っ黒に……。











「昼休みだ。飯を食っておけよ。じゃあ、俺は職員室に戻ってる」


 学校では、昼時を迎えた生徒達が先生の号令の後で連れと食事を始めるのがあった。その内に、もちろん涼達もいる。涼、鼬、マーレ、琴音の四人は教室の端辺りに固まって、昼食を取っていた。談笑して、各々の顔には笑みがある。


 そんな中で、またマーレは琴音の動向に目を光らせていた。この時、彼女が目を向けたのは前にもあった問題だ。昼食の量。


(また少ない……よし)


「琴音、ほら」


「ん?」


 マーレは問題を目に留めると、すぐに行動に移した。弁当の蓋に、その中身を乗せて琴音に差し出したのである。そうして、言った。


「疲れも取れてるみたいだし、今日はお腹、減ってるんじゃない?」


「あ、ああ……ありがとな、マーレ」


「……! うん」


 マーレの優しさに、琴音は頷いた。頷いた後で、マーレが差し出した蓋を受け取って、弁当の一部を口に入れたのだった。

 それを見て驚いたのは、マーレである。彼女はこんな風に、琴音が素直に善意を受け入れてくれるとは思っていなかったのだ。だが、これは間違いなくいい傾向。少し不審な点があるとはいえ……マーレの頬は、少しだけ緩んだ。


「おいしい?」


「ああ、うまいぜ!」


「そ? 勇気に伝えておくわ。アンタの弁当、うまかったって」


「え……これ勇気が作ってたのか?」


 マーレの言葉に、琴音は首を傾げる。この弁当は勇気が作ったモノだったのか、と。その問いに、何故か涼が誇らしげに胸の前に腕を組んで答えた。


「ふっ、当然ね。勇気だもの」


「お~い涼。お前は何で誇らしげなんだ? こん中じゃ、お前が一番料理下手じゃないか」


「なっ、何言ってんのよ鼬!」


 鼬の指摘を受けると、涼は顔を赤くして机をぶっ叩く。が、彼女がそんなことをしても、周りは鼬側らしかった。マーレと琴音も、顔を見合わせて頷き合ったのである。


「そりゃそうだ。勇気がいなかった時、確か三人で回してただろ? 三日に一回だけ、なんか訳の分かんない料理出てきてたよな。あれが涼のだろ?」


「いっ、いやあれは……」


「涼のね、あれは。正直、眉をひそめずに食べるのが大変だったわ」


「ぶっ、マーレまで……クソ、どいつもこいつも……りょ、料理なんて作れなくていいでしょうが!」


「うわぁ、料理できなきゃモテないぜ? 男も女も」


「うっ、うるさい琴音!」


 そんな感じに、四人はハチャメチャというには少し盛ったくらいの騒ぎをしながら、笑い合うのだった。琴音の表情は……愉快そうであった。屈託のない、笑み。

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