皆を惑わす、元気の仮面
雨の朝。太陽は厚い雲に遮られ、地上は暗い。そんな中でも、学校はこうこうと電気を光らせて、子供を受け入れていた。
そんな中の、一つの教室。それの戸を開いて、中に入ってくる者が一人。
「おはよう~」
「あ、琴音が来た」
「琴音~」
教室の中に入ってきたのは、琴音であった。彼女の声と、そして姿を見止めると、中にいた涼と鼬は顔を合わせる。そして、入り口辺りに立っている彼女の方へと走って向かった。二人は元気に、琴音へ声をかける。
「よっ、琴音。……ってか、すごい濡れてないか、肩」
「だ、大丈夫? 傘、差してなかったの?」
「いんや、傘差してたぜ? 濡れてんのは走って来たから」
「走って来た!?」
涼と鼬はつい、大声を上げて疑問を露にしてしまう。そうして流れるように、外の雨に目を向けた。変わらず、土砂降り。土を穿つかのような雨。そんな中を、琴音を走ってきたというのだ。何故。今は別に、遅刻ギリギリではなかった。それを、鼬と涼は問う。
「な、なんでよ。走ってくる意味、なくない?」
「今は別に、そんな遅刻ギリギリって訳じゃないぜ?」
二人が本当に訳が分からないという風に聞くと、琴音は胸を張って答えた。
「早く学校に来たかったからだ。それ以外に理由はないぜ!」
「………………」
涼と鼬は、顔を合わせて首を傾げる。さっきと、顔の色は何ら変わらない。疑問の色だ。こいつ、何言ってんだろうなっていう、そういう顔だ。
と、その三人のやり取りを見ていたマーレは、椅子に座ったままでため息を吐いた。
(どうやら本当に、気分転換には成功しているらしいわね……おかしな話だわ)
そういう風に考えて、少し俯いた。何か、嫌な予感がしたのだろう。何があったら、目の下にクマをつくるような精神的、身体的な疲労を一日の気分転換で払えるというのだろうか。その奥には、何かが……
(とはいえ……)
「フッ、馬鹿ね。私達にそんなに会いたかったのかしら?」
そんな懸念を、ゆっくりと考えることはなかった。ともかくは、話に参加して琴音の様子を見よう。そして、支えになってやろうという意志を持ってマーレは琴音に向かったのだった。
少しすると、四人は固まって談笑をし始める。教室の角で、それは普通の仲の良い子供達、そのものだった。皆の顔には、もれなく幸福がある。全員が笑っていなくとも、冗談で誰かが小馬鹿にされて機嫌が崩れようとも、そんなしかめっ面にも幸福があるような。そんな、普通な……
(……休んでくれたみたい、だな)
四人が談笑するのを、教壇で見ていた飯田は満足そうにフッと笑う。特に見ていたのは琴音であったが、彼女の顔にはちゃんと揺らぎのない幸せがあった。
(……ま、いい。笑ってくれるなら、それでいいんだ。さて……)
飯田は教壇に背を預け、黒板に向かう。そうして、憂鬱そうに首を抑えた。
(仕事、面倒くさいな……。帰りたい。帰って、嫁とイチャイチャしていたい……)




