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出立

「じゃあ、行ってくるぜ勇気」


「行ってくるわ~」


「ああ。行ってこい」


 勇気はマーレ達三人が、妖館から出て行くのを見送っていた。特に、マーレに目を寄こして行って来いと言った。その目には、早朝に見せたような温かさがある。マーレはそれを受けて……


「フッ……じゃあね。また後で」


 少し笑ってから、後で会おうと言って背を見せる。そうして、すぐに妖館の外へと向かっていくのだった。それを、勇気は満足げな顔で見送る。二人は、目で何かを言い合ったようだ。それに、涼と鼬は気付かずにそのまま外へ向かう。


「さて……じゃあ、太三郎さんも、もう行っちまうのか?」


 涼、鼬、マーレの三人を見送った後で、勇気はふと、後ろを振り返る。すると、エントランスには太三郎が、煙管を吸って立っていた。彼は勇気の問いに頷く。


「うむ、そうじゃな。これからしばらくは帰らん。天翔も。タマと照は……帰れる時分になったら恐らくそのまま二号の方へ戻る。元々は、奴らはあちらから来たのじゃしな」


「へぇ……最後だったのに、あんな別れ方しちまったのか」


 勇気はタマと照が、自分達の妖館にもうしばらくは寄らないと聞き、昨日のことを思い出す。そうして、あんな別れ方をしてしまったのかと頭を抱えた。

 ただ、太三郎は勇気のそんな残念そうな顔を見ると、呆れたようにして口を開く。


「あ奴らは適当な性分じゃからの。ま、次に会う機会もある。あまり気にするな。さて、もう儂は行くぞ」


 そう言った後で、太三郎は前に進み出た。妖館を出るつもりなのだろう。それを見た勇気は、気分を切り替えて彼のことを見送ろうとする。


「ん~……そうだな。じゃあ、煙草の吸い過ぎには気を付けてくれよ」


「じゃから、儂は吸ってても大丈夫なんじゃって……まあよいがの。頼むぞ、留守を」


「ああ、分かったよ」


 太三郎は勇気の見送りを受けて、傘を片手に妖館を出て行く。その背を、勇気は見えなくなるまで見送ったのだった。


 その後で、彼は……


「……さて、まだ寝てる怠惰なララを、起こしに行かなくては」


 少しだけ不機嫌な表情をして、妖館の中の方へと体を向けた。
















「行ってくるな、母さん!」


「う、うん、行ってらっしゃい琴音」


 琴音は愛音のラーメン屋から、スクールバッグを肩に走って出て行った。雨だというのに……左手に持った傘が揺れて、肩の辺りを濡らしてしまっている。

 だが、琴音の顔には満面の笑みが。昨日までの様子とは全然違う。全身の雰囲気まで、元の彼女のように戻っているようだった。快活な、少女の黄色。それを、走り去っていく琴音の背に見た愛音は安心したように息を吐く。


「本当に、気分転換は効果的だったみたいね。……よかった、本当に」


 そういう風に呟いた愛音の目には、涙が。娘の調子が元に戻って、本当に、本当にうれしいのだろう。

 だが、それに浸っている暇は彼女にはない。自分の頬を叩いて、愛音は気を入れ替える。そうして、ラーメン屋の入口の戸を閉めた。


「よし……じゃあ、昨日に出来なかったから、家計簿を……どのくらい、出していいかも考えないと……」


 そうして、愛音は自分のラーメン屋の方へと体を向けた。


 彼女はそのまま、まずは家計簿とラーメン屋のカウンター奥へ向かう。堀田親子が生活している場所が、階上にあるからだ。言った通り、まずは家計簿をと思ったのだろう。財布と、ペンと、家計簿を取りに行ったのだ。


 それはつまり、琴音が札の束を入れた財布を、その目に入れるということだ。


 着実に、ゆっくりと。愛音は暗い階段を上っていくのだった。

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