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妖館、その目的

「うぅ、うぉええぇぇへぇぇ~…………んぐっ、うぅ……」


 太三郎は一人、暗くなってくる時間の妖館の廊下を、一人で歩いていた。随分な汚い音を上げながら、である。そんな風でありながらも、彼は煙草を吸っていた。それはある目的からであるが……それは後ほど。


 太三郎は廊下を歩いて、妖館に誰かいないか、見回りをしていた。そうして彼が、しばらくそれを続けていると……


「あーっそこ! そこだよ勇気!!」


「うおっ、うあっ、ふんっ……!!」


 そんな声が、どこかからか聞こえてきた。勇気とララの声である。それを耳の端に入れると、太三郎は呆れた顔をしながらも、そちらに向かった。そちら、つまり勇気の部屋だ。太三郎は勇気の部屋に、トボトボと口調と同じような年寄りっぽい歩き方で向かった。


 そうして、目の前に辿り着く。その後で彼は、ノックも無しにいきなり勇気の部屋のドアを開き切った。すると、部屋の中では……


「勇気、そんなんだから勝てないんだよぉ~」


「ぐ、ぐぅ……うるさいララ! お前もさっき負けてただろ!」


「私は二位だも~ん。勇気は十二位だから、底辺だから。大体なんでスタートした瞬間にバックし始めるの?」


 ビデオゲームを目の前に、本当の子供のように騒いでいる勇気とララの姿があった。太三郎はそれを見て、呆れた目をし、期待外れという感じで肩を落とす反応をする。


「はぁ……なんじゃ期待させおって」


「仕方ないだろ! レースゲームは初めてだから……って、太三郎さん?」


 太三郎の声を耳の端に入れてか、勇気が彼の方へと目を向ける。それにつられて、ララも顔をのぞかせた。そうして、二人の目に初めについたのは……


「え……なんだよそれ」


「煙がすごい形してる……桶?」


 太三郎の体にまとわりつく煙が為す形であった。太三郎の口から洩れる煙はまるで、桶のような形をして彼の目の前にあったのだ。

 だが、太三郎は全然、二人の疑問に目を向けることはなかった。


「んなことはどうでもいいじゃろ。というか、儂は……んぐっ、おえぇぇ……」


 だが、太三郎は話の途中にて、吐き気に襲われてブツを口の外に出した。その様子を見て、勇気とララはドン引きする。太三郎が吐く様子というか、その時に彼が取った行動だ。


「え……何してるの太三郎さん?」


「煙……受け皿にしてんのか?」


「き、汚い」


 そう、太三郎は煙を操って自分の吐瀉物(としゃぶつ)を受け止めるために、嘔吐しながらも煙草を吸っていたのだ。煙が桶のような形をしていたのはそのためである。今も煙は、太三郎のそれを受け止めていた。まあ、その姿は……何とも、近寄りがたいモノであった。

 そんな感じに二人の子供が自分の様相に関して文句を言ってきたのに対し、太三郎は反発する。


「うるさいわ! そんなに汚いと言うんじゃったらお主らにかけてやろうか!」


「いや、それは意味わかんねえよ」


「はぁ……まったく」


 太三郎は勇気の言葉を受けて、ふてくされたようにため息を吐く。そうして、呟いた。


「そこっ、とか気合を入れておる声が聞こえたから、中でセックスでもしておるのかと思って入ってみれば期待外れじゃし……」


「ん…………んッ!?」


「いいい、今なんて言ったの太三郎さんッ!?」


 太三郎の呟いた言葉が信じられず、勇気とララは疑問の声を大きく上げてしまう。本当に、彼は何を言っているのだろうか。

 だが、太三郎は二人のそんな様子にあまり反応せず、淡々と説明する。


「外ではそんな風に聞こえたんじゃよ。そこっ、そこっ……ふん、うんっ……との。まぐわっておるのかと」


「なっ、なななな、なんてことを……!!」


「あ~、誤解ならまあ、いいけどよ」


「よくないよ勇気ッ!!」


「んで、期待してたってのはなんだよ。すごい気持ち悪いんだが……」


「いや儂、子供の色恋沙汰とか大好きじゃし……」


「何で無視なのぉ……」


 勇気と太三郎の会話について行けず、ララはその場にへたり込む。どうやら、もうついて行くことをあきらめたらしい。だが丁度良く、彼女がそんな風に思った時、勇気が真面目な方向へと話の舵を切る。


「んで、今は……四、五時か。……朝見た時からタマさん、それに天翔さんと照を見てないけど、太三郎さんは知らないか?」


 勇気は部屋の時計に目を向けて、時間を把握する。それは驚くべき時間の、四時半辺り。勇気とララは朝の一件からほとんどぶっ通しでゲームを続けていたわけだが……彼らは照達をその間に見ていなかったらしいのだ。というか、部屋に訪れなかったというか。二人は勇気の部屋にこもってゲームをやっていたから。


 そんな勇気の問いに、太三郎は首を抑えながら答える。


「ああ、あ奴らは他の妖館に出向いておるよ」


「ん、他の妖館……?」


 勇気は思わず、首を傾げて疑問を露にする。彼としては、あまり聞きなれないワードだ。他の妖館。確か、あの荒療治を行う直前に一度、似たような話をしたが。彼にそんな細かい所の記憶は残っていなかった。

 だが、そんな彼の思考を支えるように横のララが声を上げる。


「ほら、いつか話したじゃん。二号とか、それ以外にも妖館があるよって話」


「ああ……ああ! あの時か」


 勇気は声を上げて思い出す。そういえば、そんな話をしたと。だが、思い出したところでもう一つの疑問が出てくる。


「……何でそんなに、いっぱい妖館ってあるんだ? それに妖館って、一個保つためでも大変そうだけどよ……」


 そうだ。他にも妖館があると太三郎や、ララは言った。だが、それは一体何を目的にしての事なのだろう。どうやってそんなことを実現しているのだろう。当然の疑問だ。


 その勇気の疑問に、太三郎は息を吐いて、真剣な目をして答えた。


「無論、多くの子を救うためじゃよ」

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