遥かなる年長者達
「千年近くって……妖怪って、皆そんなに長く生きるもんなのか?」
勇気は頭を抱えながら、タマに問う。その様子は、本当に悉くが分からなくて、焦りでさえも浮かべてしまっているかのような雰囲気である。
前回、勇気は目の前のタマという女性が、千年近くも生きているという衝撃の事実を知った。もっと言えば、彼女は自分をかの有名な玉藻の前であると名乗ったのだ。そりゃあ有名も有名。九尾と言えば彼女のことを指す。知らぬ人がいるだろうか。少なくとも、どちらか一方は知っているだろう。それまでに有名、そして偉大な、日本の大妖怪と言えば、その一つに挙げられるまでの妖である。
だが、今勇気が感じている大きい疑問は彼女が玉藻の前であるかどうかではない。千年ほどの前の妖怪が、今も生きていたのか? 妖怪とは、皆そういうものなのか?
勇気の問いを受けて、タマは頭を抱える。やれやれと言った様子だ。
「そういうわけじゃあない。妖怪は、人並みの寿命さ。私と、それに太三郎。天翔と照。とまあ私達だけだ。吸血鬼のような特質も持たず、こんなにも長く生きているのは」
そうやって、軽く端的に伝えた。つまり、妖怪は人並みの寿命だが、自分達だけは特殊である、と。
だが、勇気はそれを受けてもまだ怪訝な表情を浮かべていた。まだ分からないところがある様子。それを、彼はすぐに問う。
「……そう、なのか。いや、だとしたらどうして、そんなにも長生きなんだ?」
「あ、それ。私も気になってたんだ~。ね、タマさん。どうしてなの?」
勇気の質問を聞いて、ララも同調する。どうやら、どうしてタマが長生きなのかは知らなかったようだ。それを受けて、タマは思い出すように、遠い目をして口を開く。
「詳しく話はしないが……八つ当たりを受けたのさ」
「……?」
「どういうことだ?」
「照に不老不死の薬を飲まされたんだ。私と太三郎と天翔はな」
「不老不死の……薬?」
勇気とララは、タマの言葉を聞いて同じように首を傾げた。タマはそんな二人の様子を見て、頭を掻く。そんな、呆れて物も言えないという様子でまた続けた。
「あいつは元から特殊でな、自分が不老不死で悲しいからって、私達を巻き込んだのさ」
「え……照さんが?」
「あいつが……」
「まあ、同意の上だったがな。そんな感じで、私達は永遠に生きることになったんだ」
タマは何でもないことを説明し終えたかのように、凄まじい事実を語り終えた。当然、彼女の様子とは打って変わって、勇気達は口をあんぐりと開けている。不老不死の薬を……などと、にわかに信じられる話ではない。
だが、もう少し疑問がある。勇気は思い出したように、それを問う。
「……不老不死の薬……いや、それもそうなんだがよ」
「ん、どうした? なんでも答えるぞ」
「タマさん……ああ、ええ、玉藻の前さんは……」
「タマさんでいい」
「ああ、うん。タマさんは……その、失礼かもしれないが……伝説で最後、石になってなかったか? 安倍晴明達に追われた後で……ありゃ嘘だったのか?」
勇気は思わず、その点を問うてしまう。つまりは、自分達の知識は間違いだったのか、と。人の世に出回っている噂や伝説というのは事実とは違ったのかということだ。
余談……というほど余談ではないが、簡単に玉藻の前の伝説、その話をしておこう。彼女は多くの国にて身分の高い、また多くの王を騙してきていた。その美貌を生かして。だがその最中、日本の者にその矛先を向けた時、安倍晴明によってその正体を暴かれてしまう。それを受けて彼女は逃げるが、最終的には追い詰められるのだ。だが彼女はその時、自分の体を人を殺す力を持つ石に変えたという。それは殺生石と呼ばれ、今も残っているという話だ。
その伝説が事実か、勇気は問う。だが、それを受けたタマは……
「フフ。お前、あの伝説が事実だったとして……私をヤリマンのアバズレだとでも言いたいのか?」
と、からかうように言ってみせた。つまり、彼女が言いたいのはこう言うことだろう。伝説が事実だったとして、この私が伝説と同じように様々な男と寝ているような女に見えたのか、と。
だが、勇気とララは顔を見合わせて首を傾げた。
「……ヤリマン?」
「アバズレ……って何、勇気?」
「いや……俺にも分からん」
二人はタマの言っている内容よりも先に、彼女の使った下品な言葉の意味を理解することが出来ていなかったのだ。そんな風な言葉に触れる機会がなかったからであろうか、ともかく、タマは空気を乱されてしまう。
「あ……ああ。し、知らないのか。すまない、その……ああ……うん」
「???」
気まずいと体全身で言うかのように、タマは純粋に頭の上で疑問符を浮かべる二人から目を逸らす。そうして、ため息を吐いた後で言った。
「あれは間違いだ。私は死んでないし、人を騙すようなこともしていない。まあ確かに、美しすぎたというのはあるかもしれんが、な。道を行く者が私が沐浴をするところでも見かけて、適当な伝説でも思いついたのだろうよ。私自体は、その辺じゃ有名だったからな」
「なるほどな……」
「ああ、そういうことだ。あの伝説は、作り物さ。……さてっ」
そう言って、全身の力を抜いて背もたれに体重をかける。まるで、自分の話す番は終わった、そう言わんばかり。いや、言わんばかりというよりも、そのままであった。
「次はお前の話を聞いてみたいな、勇気」
語りを終えた後で、タマは呆けた表情をしている勇気の方へ、その興味を向けたのだった。




