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理由

 妖館、その食堂の中で……


「そうか。お主らは、奴に会って……勇気」


「何だ? 太三郎……さん」


「さん付けはせんでええ。それより……」


 勇気と涼は太三郎に今日の一連の事の次第を話す。太三郎はそれを、柔軟に、全て頷いて返した。どうやら彼にとって、さっきまでの二人のやり取りなど、珍しくもないという様子だ。

 だが、何か一つが引っかかったらしい。煙管を手で持って、ふーっと息を吐きながら勇気の目を見据えて問う。煙草はもう持っていない。


「お主、どうして自殺したんじゃ」


「…………」


 勇気、涼、太三郎。三人の座ったテーブルに、重苦しい空気が広がる。太三郎の問いが、発されて以降急にだ。

 それまではまだ、話題こそ暗さを持っていたが、根本には触れられていなかった。だが、理由はだめだ。一番、人の気持ちに引っかかるもの。


 勇気は目を軽く伏せながら、太三郎の言葉に応える。


「……悪いけど……」


「いいや、答えてもらうぞ」


「…………っ」


 勇気の首筋に、一筋の汗が伝う。太三郎の目に、少しの恐怖を覚えたからだろう。勇気の真正面に座り、彼のことを静かに見据えるその目は、鋭く輝いていた。敵意やらではない。ならば、なんだろうか。

 考える暇はなかった。勇気は未だ、太三郎の言葉が受け入れられずに首を振る。


「……本当に、言いたくないんだ。だって……」


「分からないんじゃよ。お主が死ぬ気配が。今見てみても、話しを聞いてみても。お主は普通よりも幾ばくか、達観した少年。そして、覚悟を決めることも出来る人間。それだけが分かった。じゃが、お主の死ぬる理由はどうも分からん。お主の背を押した、その理由は一体何じゃ」


 太三郎は真剣に問う。彼は口に咥えた煙管を取り、その葉を用意していた灰皿に叩いて落とす。パラパラと散る葉を目の端に捉えながら、彼は言葉を紡ぐ。


「漠然とでいいんじゃ。何も、思い出したくないことを思い出せとは言わん。じゃから……。儂らもこれから、それを聞かねばお主とどう相対すればいいか分からんのじゃ」


「………………」


「勇気……」


 話の蚊帳の外にいた涼が、勇気のことを見て心配の声を上げる。彼女も、曲がりなりにも勇気に助けられた身。あの刀の男との戦いも、勇気がいなければ彼女が怪我をしていたかもしれないし、殺されていたかもしれないのだから。その恩を、返すかのようにそう言った。

 だが、勇気は決心を付けた。


「……人間が嫌いなんだ」


「……ん」


「人間が嫌いだから、死んだ。もっと言えば、自分が人間であるということが許せなくなったんだ。あんな醜悪な、汚らしくて、全部が全部、死んだほうがいいような奴らの身であることさえ、許せなくなった。だから少なくとも、生まれ変わりたかったんだ」


「…………ほう」


「人間でなければなんでもいい。蟻でも、ゴキブリでも、ダニでも、馬糞でも。そう思って、俺は死んだ」


 勇気は自分の死んだ理由を告白した。事細か、そう思い始めた理由までもを語ったわけではない。だが、それで充分。太三郎と涼の目にはしかと、勇気が話している間、ずっと真剣な目でいたことは了解している。真実だろう。

 太三郎は勇気の話を聞いて、またも口から煙を吐き出す。その煙は輝かない青白い光を放って、天井へと昇っていく。


「お主が死のうと思った理由は分かった。端的に言って、生まれ変わりたかったんじゃろう?」


「そうだ」


「そうか……。お主ほどの人間にそう思わせた要因、本当は根を掘り葉を掘りゆっくりと聞きたいところじゃが……生き物の行動にはすべて意味がある。お主のそれが、みっともない理由でないと信じておるぞ。それに、お主の方が聞きたいことは多いじゃろうからの。さ、ドンと来い」


 太三郎は椅子に座りなおし、勇気に笑って見せた。緊張を解くためのモノだろう。ニカッと、不安なことが消し飛ぶようなカラッとした笑みだ。それを見た勇気は、太三郎の思惑通り、フッと笑って言う。


「アンタ……太三郎、いや太三郎さん」


「さん付けはいらんと言うておろうに……。誰に言ってもさん付けされる」


「そういう奴だからだろ。じゃあまず一つ目。これは今、一番気になってることなんだが……」


 勇気は涼と太三郎の顔を交互に見比べた。そうして、何かを自分に再確認して頷いた後、次の言葉へ。


「アンタ達って、妖怪なんだろ?」


「え、あ、うん」


「そうじゃが……それはもう涼が説明したんじゃないのかの」


「あ、いや、そうじゃなくってよ……」


 勇気は首を振って、二人に向かい合う。そうしてもう一度、二人の顔を見た。今度は顔だけでなく、足から頭まで、その全身を余すところなく。

 そうして見てもやはり、勇気には疑問だった。だから、言葉にして問う。


「涼、太三郎さん。アンタらって、妖怪には見えないけど……何の妖怪なんだ」

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