2 素敵な出会い?
「…………!」
ため息を落しながら座っていたグイズは、ふと己の視界に入る小さな人物に気づき、息を飲んだ。
それまで自分のことに意識が向いていたのと同時に、あまり周りを見ないようにしていたから気づかなかったのだが……
線路から響く規則的な振動に身を委ねていたグイズの目に、じわじわと熱がこもってくる。
(すんげぇ美少女。どこぞのお姫様……いや、妖精みたいだ)
年のころは十五くらいだろうか。
少なくとも、十七を超えていることはないと思われる。
艶やかな薄い水色の長い髪はゆるやかな波を作り、座席にまで広がっている。
銀色の瞳はまるで月光。やわらかそうな、それでいて透き通る白磁の肌。わずかに赤みの強い、桃色の小さな唇。
人形のようだ。
とても同じ人間とは思えないような、完璧な美貌。
小さな顔にパーツが完璧な配置で収まっている。
彼女の肢体を包む衣服は、レースを使った白のワンピースドレスで、細い黒のリボンが通されていた。
頭にはドレスにあわせた、白と黒のリボン。
愛らしく巻いているさまが、彼女をさらに魅力的にしていた。
陳腐だが、水の妖精のようだとグイズは思った。
また、どこかで読んだことのある絵物語に出てくる、うさぎを追いかけて不思議な世界に迷いこむ少女を彷彿させた。
小柄で華奢。
成長が遅いのか、胸の辺りの膨らみは確認できない。
ついそんな場所を見てしまった自分をグイズは恥じつつも、男の性って愚かだよな……などと、ある意味で達観してしまう。
たとえ女性的な成長が遅くとも、少女の完璧な美貌を損なう原因にはならなかった。
少女は大きな旅行用のバッグと、何やら細長い紫色の包み座席に立てかけているようだった。
ひとり旅のようだが、無用心なことだと他人ごとながら心配してしまう。年端もいかない、しかもあれほど整った顔立ちの少女である。家族は心配にならないのかと、見たこともない少女の身内に説教をしたくなるのは、グイズにも妹がいるからだろうか。
こんな田舎を走る汽車よりも、中央都市にある高級モノレールの一等席にいる方が似合うような、極上の少女だ。
悪いやつにさらわれてしまうかもしれない。
自分が悪党だったら、ついうっかりでお持ち帰りしていたところだ。……いや、冗談だけど……などと、自分に言い訳をする。
人生約十七年。
初めて犯罪者の気分がわかった日だ。
ある意味、記念日。
少女は雑誌のようなものを熟読していた。
その姿もまた、夢のように愛らしかった。
「はふん」
突如少女の唇から漏れた声のような吐息に、不覚にもビクッとなってしまった。少し離れているというのに、しかもそれなりにガタゴトと揺れる音が響いているというのに、グイズの耳は、少女の吐き出した吐息を逃がすことはなかったのだ。
何が起こったのかと少女を見ると、彼女はやはり雑誌を見ているだけだ。
今の今まで、少女にばかり気を取られていたけれど、熱心に読んでいるものにも、興味が沸いてくる。
「………………」
グイズはそっと席から腰を上げ、何気ないふりを装いながら、通路をゆっくりと歩き、少女の横を通った。
さっと、面白い記事でもあったのかと非常に気になり、通りすがるふりをして雑誌の中身に素早く目をやる。
見た途端、力が抜けた。
なんてことはない。ただの、どこにでもあるような通販の雑誌だった。多種な商品の写真に、いろいろな説明文がついている。
さすがに文字までは見えなかったけれども、キッチン用具の写真のようだった。
脱力したグイズの耳に、再び「はふん」という吐息が届く。
もしかしたら、どこか体調が悪いのかもしれない。
美少女ということを抜きにしても、体調不良の人間を相手に、知らぬ顔ができるわけもない。
「あ、あの。どこか気分でも悪いんじゃ?」
意を「決して声をかけてみた。できるだけ、怖がらないような声音を心がけて。




