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聖なる鎮魂者たちの宴  作者: 缶詰め商店街パンダ支部
第一章 ルイーズ.アンダースワン
3/19

2 素敵な出会い?

「…………!」

 ため息を落しながら座っていたグイズは、ふと己の視界に入る小さな人物に気づき、息を飲んだ。


 それまで自分のことに意識が向いていたのと同時に、あまり周りを見ないようにしていたから気づかなかったのだが……


 線路から響く規則的な振動に身を委ねていたグイズの目に、じわじわと熱がこもってくる。


(すんげぇ美少女。どこぞのお姫様……いや、妖精みたいだ)


 年のころは十五くらいだろうか。

 少なくとも、十七を超えていることはないと思われる。

 艶やかな薄い水色の長い髪はゆるやかな波を作り、座席にまで広がっている。

 銀色の瞳はまるで月光。やわらかそうな、それでいて透き通る白磁の肌。わずかに赤みの強い、桃色の小さな唇。

 人形のようだ。

 とても同じ人間とは思えないような、完璧な美貌。

 小さな顔にパーツが完璧な配置で収まっている。

 彼女の肢体を包む衣服は、レースを使った白のワンピースドレスで、細い黒のリボンが通されていた。

 頭にはドレスにあわせた、白と黒のリボン。

 愛らしく巻いているさまが、彼女をさらに魅力的にしていた。

 陳腐だが、水の妖精のようだとグイズは思った。

 また、どこかで読んだことのある絵物語に出てくる、うさぎを追いかけて不思議な世界に迷いこむ少女を彷彿(ほうふつ)させた。

 小柄で華奢。

 成長が遅いのか、胸の辺りの膨らみは確認できない。

 ついそんな場所を見てしまった自分をグイズは恥じつつも、男の性って愚かだよな……などと、ある意味で達観してしまう。

 たとえ女性的な成長が遅くとも、少女の完璧な美貌を損なう原因にはならなかった。


 少女は大きな旅行用のバッグと、何やら細長い紫色の包み座席に立てかけているようだった。


 ひとり旅のようだが、無用心なことだと他人ごとながら心配してしまう。年端もいかない、しかもあれほど整った顔立ちの少女である。家族は心配にならないのかと、見たこともない少女の身内に説教をしたくなるのは、グイズにも妹がいるからだろうか。


 こんな田舎を走る汽車よりも、中央都市にある高級モノレールの一等席にいる方が似合うような、極上の少女だ。

 悪いやつにさらわれてしまうかもしれない。


 自分が悪党だったら、ついうっかりでお持ち帰りしていたところだ。……いや、冗談だけど……などと、自分に言い訳をする。


 人生約十七年。


 初めて犯罪者の気分がわかった日だ。

 ある意味、記念日。

 少女は雑誌のようなものを熟読していた。

 その姿もまた、夢のように愛らしかった。


「はふん」


 突如少女の唇から漏れた声のような吐息に、不覚にもビクッとなってしまった。少し離れているというのに、しかもそれなりにガタゴトと揺れる音が響いているというのに、グイズの耳は、少女の吐き出した吐息を逃がすことはなかったのだ。


 何が起こったのかと少女を見ると、彼女はやはり雑誌を見ているだけだ。


 今の今まで、少女にばかり気を取られていたけれど、熱心に読んでいるものにも、興味が沸いてくる。


「………………」


 グイズはそっと席から腰を上げ、何気ないふりを装いながら、通路をゆっくりと歩き、少女の横を通った。


 さっと、面白い記事でもあったのかと非常に気になり、通りすがるふりをして雑誌の中身に素早く目をやる。


 見た途端、力が抜けた。

 なんてことはない。ただの、どこにでもあるような通販の雑誌だった。多種な商品の写真に、いろいろな説明文がついている。


 さすがに文字までは見えなかったけれども、キッチン用具の写真のようだった。


 脱力したグイズの耳に、再び「はふん」という吐息が届く。

 もしかしたら、どこか体調が悪いのかもしれない。

 美少女ということを抜きにしても、体調不良の人間を相手に、知らぬ顔ができるわけもない。


「あ、あの。どこか気分でも悪いんじゃ?」


 意を「決して声をかけてみた。できるだけ、怖がらないような声音を心がけて。




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