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5 喪失の朝


 パド神父の葬儀は村長が取り仕切り、グイズもパド神父の家族として妹と共に出席をした。村唯一の神父だったパド神父にかわり、葬送の儀を行ってくれたのは、客人としてやってきていたルイーズだった。

 彼女がいなければ、聖職者なしの葬送の儀になっていたはずなので、このタイミングで彼女が村へとやってきたのは、運命的な流れを感じる者は少なくないようだ。

 この件もあり、よそ者であるルイーズは比較的簡単に他の村人たちから受け入れられているように、グイズには見えた。それは大変喜ばしいことではあるのだが、今はまだ、無邪気に喜べるような心情にはなれなかった。

 数年前に両親を事故で亡くした時と同じような喪失感を、グイズは味わっている。

 考えが、大人に近づいている分、よりいっそう人間の死というものが、大きく、重く、グイズにはのしかかっていた。

 睡眠欲というよりも、疲労を残したままの身体は、ベッドから離れることを拒否している。それでも、グイズは上半身を起こし、ゆるゆると、ベッドから降りた。

 服を着替えて、脱いだ服は籠の中に淹れる。洗濯は妹の仕事で、脱ぎ捨てたままを散らかしていると、腰に手を当ててプリプリと怒るのだ。

 ……今はまだ、怒るような元気も出ないだろうけれども……

 普段着にきがえたグイズが一階へおりると、先に起きていたルイーズがちょうどベーコンを焼いているところだった。ルイーズは初日以降、ずっとこの教会に泊まっている。

 村には宿というものが、存在しない。この村に旅人などが寄っていた昔にはあったらしいが、まるで客が来なくなってからは、閉店してしまったのだと聞く。

 ゆえに、ルイーズが泊まれる場所はなく、教会に滞在することになったのだ。

 ルイーズの話によると、元からそういう予定だったらしい。

 また、彼女は村唯一の聖職者だったパド神父にかわり、代理で教会の管理を、帝都の大聖教会より正式に任命されたのだった。

 次の神父が派遣されるまでの代理ではあるが、今はルイーズがこの教会の主なのだ。

 無論、この教会の主になったからといって、彼女が理不尽にもグイズとリズを教会から追い出すようなことはなかった。

 それどころか、心の落ち着かないグイズとリズのかわりに、家事まで担ってくれているのだ。

「あら、おはようございますわ、グイズさん」

 エプロンを身に着けたルイーズが、グイズに気づいて微笑を見せる。

 料理中の彼女は、長い髪を後ろに結んでいた。グイズは小さく笑い返し――未だ、いつものような元気は取り戻せていないけれども、形だけはどうにか取り繕うことができるような微笑を返し、顔を洗うために洗面所に向かう。

 そこには、グイズの妹リズが先客としていた。

「おはよう、リズ」

「……おはよう、お兄ちゃん」

 ふり向いたリズの目は、赤く腫れていた。パド神父が逝去してから毎朝、この顔である。

 どうやらリズは、泣きながら目を覚ましているらしい。妹の柔らかな赤茶毛を撫で、顔を洗って、歯を磨く。その間、リズは大人しく待ってくれた。

 共にキッチンへと戻ると、朝食の支度は終わっていた。

「あ、ご飯にいたしましょう」

 テーブルに用意されていたのは、焼いたパンとベーコン、それに目玉焼きと、野菜のスープだった。パド神父がいつも座っていた席には誰も腰をかけないが、朝食が置かれていた。それは影膳(かげぜん)といって、故人を悼んで十日間食事を用意する昔からの慣習である。

 グイズとリズは並んで席に着く。ルイーズは、リズの向かいに腰を下ろした。

 全員で手を顔の前で組み、食前の祈りを捧げる。

「天にまします我らが父よ、本日もお恵みをありがとうございます」

 短い祈りが終り、朝食を口に運ぶ。すべてシンプルな造りだが、不平を漏らすような内容ではない。ルイーズの作る料理は素朴なものばかりだが、そこそこうまい。

 食料庫にはそれなりのものがそろっているはずなのだが、彼女の作るものは素朴なものが多い。清貧をよしとする聖職者だからなのかと思っていたら、それは単純に、複雑な料理を作るスキルがルイーズにはないだけだと、彼女は少し申し訳なさそうに言っていた。

 そういえばパド神父も贅沢こそはしなかったけれども、美味しい料理は好んでいた。



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