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5.ジギルとラグラス

 火が消えたような沈黙。

 さっきまでのざわつきが、一斉に静まり返った。


 水浸しになった2人は、唖然とした様子で1人の少女を見る。


 ラグラスは一瞬「はっ!」と我に返ったかのような顔をして、少女の方を睨み付けた。

 少女に向かって何かを言いかけた──その時。



「ラグラス!!貴様ぁ──いったい何してる!!」



 ラグラスの声を遮る、墳然した様子の声が辺りに響いた。

 

 人集りは避ける様に1人の男に道を作る。

 その先にはラグラスの父、ジギルの姿があった。


 騒ぎを聞きつけ駆け付けたのか、それはラグラスの元へ一直線に向かってくる。


 その巨体と長身はまさに彼の父親と言ったところで、見下ろすようにラグラスの前に立ちはだった。

 


 ラグラスは「チッ!」っと舌を鳴らし、不貞腐れた顔でジギルを睨む。

 そんな息子に対し、ジギルは業を煮やしたかのようにラグラスの頭をわしづかみにした。



「貴様はぁ!何度同じことを言わせれば気が済むのだ!!なぜ、そう殺気立つ!その力──弱きを守るために使えんのか!!」


 頭を押さえつけ呵責するジギルに、ラグラスは喜色した表情で答えた。



「はぁ?弱きを守る?親父がそんなんだから、この国には権力にビビる腑抜けしか居ねぇんじゃねーのか!?

 それが親父の正義なら、なんべん言われてもわかんねーなぁ!声を上げない民衆ばっかの国なんか作ってよぉ!?それが何になるってんだぁ?」


 

 わざと逆鱗に触れるかのように言い放ち、ジギルの表情はますます怒気に染まっていく。

 

 その中、シキが口を開く。


 

「──ジギルさん、あの──」



 口を挟むシキに──ラグラスがすかさず、食って掛かる様に顔を向ける。

 ジギルはそれを更に押さえつけ、シキの方を振り返った。



「シキか……すまんな、うちの馬鹿息子が。こいつはお前に突っかかりたくてしょうがないらしい。勘弁してやってくれ」


「いえ……オレは大丈夫です。これくらい、大したことないんで……。ただオレは、あまり目立ちたくない──それだけです」


 起き上がろうとするシキに、とりあえずその場の怒りは置いておくとした顔で、ジギルはラグラスに変わり、シキに頭を低くする。

 


「はぁ?なんであやま──!」


 それでも食って掛かるラグラスをまた更に上から押さえつけた。

 

 ジギルはそのまま振り返り、去り際に一言呟いた。




「──あの時とは、逆だな」



 そう言って、そのままラグラスを引きずる様にその場を去っていった。

 ラグラスの抵抗する声は、しばらく鳴り響いた。




 ◇




 

 シキは2人の去っていく後ろ姿を見て、力が抜けたかのように起き上がるのをやめた。


 取り巻きもいつの間にか居なくなり、人集りもシキを横目に散っていく。

 普段と変わらない人通りへと戻っていった。



 シキはそのまま、何か思うように──ただボーっとした様子で空を眺めた。




「ねぇ、君──」



 先程の少女が、長い髪を耳にかけながら横たわるシキを覗き込む。

 ジギルの登場ですっかり忘れていた。



「あー、さっきはごめんねー。なんか君達、街の中でアツくなってたからさ」


手を伸ばし、横たわるシキの体を引っ張り起こした。



「いや、こっちこそゴメン。──あんな騒ぎ起こしちゃって……誰か巻き込んでたら大変だったからさ。逆に助かったよ。ありがとう」

 

 申し訳なさそうに謝罪と感謝をすると、少女は微笑む様に笑う。



「私、シルフィーナって言うの。シルフィーでいいよ?シャガルナからこっちに来たばかりなの」



「──え?」


「ん?」


 気の抜けた声で話し掛けるシルフィーに、シキは呆然とした顔で言葉を探した。



「いや──、あー……シルフィー。何でオレなんかに話し掛けるの?」


「あれ?ダメだったかな?──何でって、とくに理由はないんだけど……。君がそこにいるからかな?」



「あ、いや、ダメとかじゃないんだけど──イシュディアだからさ。話し掛ける人なんて、なかなかいないから……」

 

 初対面の、ましてやイシュディアに平然と接してくるシルフィーに、シキはやや困惑した。



「──君、何か悪い事でもしたの?」


「オレは……何もしてないよ。でもイシュディアはそこにいるだけで──」


「──じゃあ、君は何も悪くないよね?」


 首を傾げながら問いかけてくるシルフィーにどこか調子が狂う……。

 シキは言葉がうまく出なかった。

 


「さっきの子だって、君に話し掛けてたじゃない?じゃあ、私も君に話し掛けていいよね?」


 ちょっとフワフワした面持ちで話し掛けるシルフィーについていけない様子のシキ。

 完全にシルフィーのペースに乗せられていた。



「わ、わかったよ。シルフィー。話し掛けてくれるのは嬉しいからさ、とりあえずこの辺から離れてもいいかな?」


 シルフィーのペースを切る様に慌てて話した。

 それに満足したかの笑顔でシルフィーは笑い、立ち上がろうとするシキに更に問いかける。



「その前に、君の名前。──私は名乗ったのに、まだ君からは聞いてない」


「あぁ、ゴメン……オレはシキ。シキでいいからさ」



「そっか、シキ。そっかー!──はい、シキ!」


 シルフィーは満足気な顔で、立ち上がろうとするシキに手を差し出した。


 腑に落ちない顔をしながらも、差し出された手を取ろうと体を前に出した。



「──っとと」


 シルフィーの手を取る寸前、さっきのダメージが足にきてたのかフラつき、体が前に倒れそうになる。

 とっさに何かに掴まろうとするシキ。


 シルフィーの履布(サリー)を掴んでしまった──。


 そのままシルフィーの履布(サリー)が脱げ、全開にずり落ちた。

 



「ひぅッ──!」


「あ──」




 一瞬、時が止まった──。

 


 シルフィーはとっさに上に着てた布の裾で、絶賛公開中の下着を隠した。


 しかし、前も隠れきってはおらず、後ろは全開で人通りに晒している。

 

 歳はシキと変わらないくらい。少女と言うだけあって、まだ子供。


 街行く人は、そんな子供の醜態を横目にクスクスと笑いながら通り過ぎて行く。



 シルフィーは赤面して顔を俯かせ、落ちた履布(サリー)をゆっくりと履きなおす。




「──ねぇ、シキ」


「──はい」



「──これはどういうことだろう」


「…………」



「──ねぇ、シキ」


「──はい」



「──何か言い残すことはある?」


「…………」



 笑ってシキを見下ろすシルフィーに──先程までのフワフワした空気はなかった。

 

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