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3.今あるものは

現在に戻ります。

構成の悪さと駄文をお許しください。

「あら?──どこか出掛けるのかしら?」


「ん──。ちょっと図書館に……本を」


 着替え中に話し掛ける母に、思春期を迎える息子はやや恥ずかしがる。


「あらあら。夢中になるのはいいけど……双子ちゃんにもかまってあげてね?」


「ん。それは大丈夫だからさ。まかせて」


 微笑む母に、微笑み返した。


 身支度を整え準備していると、さっそく赤と青の小さいのが寄って来て、足に纏わり付く。


「にぃ様遊んでー!」


「遊んでー!」


 5歳になる双子の妹弟──「メグリ」と「メグル」

赤いほうがメグリで、青いほうがメグル。

 2人はシキと違い、ルミナスとして産まれてきた。それもかなりの能力値があると評価され、ラフィールの民は皆2人の成長に期待した。

 その分、2人と比較される対象となるのは必然だった。

 将来を期待された双子と比べられ、周囲からのあたりはますます強くなる。


 しかしそんな世間とは裏腹に、今まで失うことばかりだったシキにとって掛け替えのない家族。

 双子達の存在は、自分が得た物の中の数少ない一つだった。



「リン、ルン──兄様はこれからお出かけしなくちゃだからさ、帰ったらきたらいっぱい遊ぼうね」


「わーい!約束ー!」


「約束ー!」


 愛でるように、2人の頭を撫でる。


 双子だからか、5歳児にしてはちょっと小さい。

 ぱっちりとした目で、まごまごと小動物のように寄り付く。

 それはとても愛らしいもので、さすがのシキも溺愛せざるを得なかった。

 

 ちなみにリンとルンの愛称は、

 アカリが呼ぶ「メグリん、メグルん」からきた。


 なんともアカリらしいネーミングセンスだが、双子の可愛さを彷彿とさせる、アカリにしては感嘆な愛称だった。


 

 外はまだ朝方にしては日差しが暑く、ちょっとばかりジメジメした温気が肌を湿らす。

 シキは少し薄手の半袖に履布(サリー)、腰巻に懐中時計をぶら下げた服装に着替える。

 

履布(サリー)とは、内股がだいぶゆったりした動きやすい作りになっていて、足を全開にしても裂けないようにできている。

 この国に住む大半の者は皆これを履いて生活している。ディアーナの民族衣装の様な物であり、戦闘衣でもあった。


 これに柄の入った腰巻などを巻き、微妙なオシャレを取り入れる。これが一般的な服装だった。

 あまり目立ちたくないシキはシンプルな物を好み、柄も最小限に地味な物。

 何より一番目立つ頭を隠すため、首に巻いて使う白いフードの様な被り物をしていた。

 

 白いフードなら外に多少髪が出ても、他の色より目立たないからだ。

 


「それじゃ、行ってくるからさ。リン、ルン、母さんの言うこと聞いて、いい子してるんだよ?」


「はーい!にぃ様、早く帰ってきてねー!」


「あらあら、リンちゃんルンちゃんはお兄ちゃん大好きね。気を付けて行くのよ?」




 父はすでに森に入ったのか姿は見えなく、母と双子達に見送られながら家を出た。

 

 本を包んだ布を抱きかかえるように、図書館へ向かった。



 ◇



 街の中心地から少し外れの方にある図書館を目指して歩いた。

 図書館といってもそれはただの書庫でしかなく、他に利用する者がいるのかも不明だ。



 外はだいぶ暑く、汗がシキの頬を伝った。


 ラフィールは隣接する森林地帯と、それを覆うような山岳地帯に囲まれた土地にあった。

 いわゆる盆地というやつで、四季がある中で夏は熱気が密集してジメジメ暑く、冬は雪が積りとても寒い……。

 


 季節というのはマナがつれてくるらしく、その大陸の環境に適した空気を運んでくると言われている。


 すべては本で読んだ知識だが、ロストグランデが起きる以前の、本来の環境を維持するのが意図らしい。

 その環境を維持することにどういう意図があるかは分からないが、つまりはそういうことみたいだ。



 本を読んでいろいろな知識が身に付いた。

 先生(・・)の言っていたことは、あながち間違いではなかったことが身にしみる。

 

 しかし本を読むことに関して「文字は私の許容範囲外だ!」と言い切られたため、1から覚える必要があった。



 この世界に於ける言語は、一部の地域を除きある程度の共通言語で統一されているらしく、言葉が通じないということはほとんど無いらしい。

 ただし文字に関しては別で、その大陸で使われていた文字であったり、新たに作られた文字であったりと様々。

 言葉を残す道具が普及してるこの世界では、文字はそこまで必要とされていなかった。


 そのせいもあるのだろうか、図書館に保管されている本は古いものが多く、真新しい本など無かった。

 

 世界から必要とされなくなった本。

 それは自分と重なるような気がして嫌いじゃなかった。



ラフィールの図書館に置かれている本は、だいたいが平仮名や漢字を覚えれば読むことが出来る本だった。

 書き取ることまではできなかったが、読む分には何とかなる。

 表現など日常会話で聞くような文面も多く、割とすんなり入り込む事が出来たのが救いだ。


 世界の歴史を記す本、神話、童話、戦記など。


 文字さえ読めれば、どこまでも広がる世界が本の中にはあった。

 夢が詰まったファンタジーな世界。著者の空想が詰まった世界。



 そのすべては、この世界で現実に起こりえること。



 たとえば魔法などと呼ばれる力。

 それはルミアを使うことが出来るこの世界で、ごく一般的なものに該当する。


 便利な道具や伝説の武器。

 多種のルミアを込めた加工石を埋め込み使う、「アーティファクト」。生活用品から武器まで様々な場面で使われている。探せば似たような物はゴロゴロ出てくるだろう。

 

 その中でも唯一可能性があるとすれば、


 主人公が無能力者であったり──。

 己の奥に秘めた力に目覚めたり──。

 シキにとって希望がみちあふれる話も多々あった。


 そんな話を見つけてはイシュディアの歴史と、自分とを物語に照らし合わせて希望を探した。

 

 しかし、一番古い記述は──ロストグランデ後期の物。

 イシュディアがこの世界にとって、如何に最厄な種族か、そんなことが書かれている物ばかりだった。

 竜の地もあまり良くは書かれていない。



 そこにシキが求めるような記述は無く、希望なんてものは早々に消え失せた。

 


 それでも本を読んでいれば、妄想する機会はいくらでもある。

 

 万が一、物語のような運命的な何かがあったとしよう。

 突然ヒロインとなる美少女が現れたり、すごい能力を秘めたアーティファクトを手に入れたりしたとしよう。

 

 落ち着いて考えれば、結果はすぐわかる。


 ヒロイン?

 こんな自分に興味なんて持つだろうか……。

 

 きっかけがあったとしても、ルミアも使えない役立たずは捨てられて終わりだ。

 

 すごいアーティファクト?

 確実に自分では使いこなせない物……。

 

 ましてやイシュディアがそんな物持っていたら大事ではすまないだろう。



 すべてはルミアに依存する。

 それは物語に出てくる様な物だけでなく、日常に普及しているアーティファクト、人としての存在価値、すべてがルミアに依存するもの。


 それを使いこなすことのできないシキにとっては、すべてが無縁の代物でしかなかった。

 


 だからこそ、時代に取り残された本は、そんな自分を少しでも生きることに勇躍させてくれる。いろいろなことを教えてくれる。

 これがシキの得た、数少ない物のもう一つ。文字と知識だ。



 ただ1つ言い直すとすれば、文字や知識や双子達、これは与えられたものに過ぎなかった。


 

 結局は、誰かの支えや助言無しで手に入れた物は1つもない。

 自ら進んで得た物は1つもない。

 

 与えられるばかりで、自分は何もしていない──。



 ◇



 

 図書館でしばらく本を見繕い、何冊か決めて布に包む。

 また人の行きかう街を戻らねばならないのは憂鬱だった。

 

 行きは朝ということもあり人通りは少ない。

 しかし今は丁度お昼くらいといったところ。

 ……一番人が多い時間。

 シキは時計を見て、また憂鬱な気分になる。


 このまま時間を潰すという考えもあるが、どちらかと言えば双子達との約束を優先したかった。

 早く帰って双子達と遊んでやりたかったシキ。

 迷いはしたが、人波へ足を運ぶ決心をした。


 ラフィールの街の作りは、城がある高台の方角に向かって何本かの大通りが集中して伸びている。

 上から見ると扇型といったところ。

 できれば郊外の方に迂回して、街の外側を帰りたい。



 頭の中でルートを確認し、何かを納得しかのように「よし」と意気込み──ドアを開ける。 


 ドアを開ければそこは一本の大通りに面している。

 こんなところに出入りするのはシキぐらいなもので、行き交う人々は皆こちらに視線を向ける。

 

 シキは視線を掻い潜って、裏路地の方へ身を隠すように入った。

 「はー……」とため息を吐きながらも、あと何本かの通りを横切らなくてはならない。



 シキは人に見られるのが嫌な訳ではない。

 自分が人を見たくないだけだった。


 嫌な顔をする者、嫌味を口にする者、指をさす者、様々だ──。そんなのは今更、何ともない。


 ただ目が合えば──領主の子供だからと愛想笑いをし、そそくさと離れていく。



 そんな人の顔を見たくないだけだった。


 そんな目で見られる自分が何者なのか分からなくなるから。


 愛想笑いなんて見せるな……。


 イシュディアとして産まれたことが、優しい父と母に申し訳く思ってしまうから──。

 自分の存在があることで、父と母にこれ以上迷惑をかけたくなかったから──。





 そんな思いもあり、なるべく外で目立ちたくない。

 シキはフードを深く被り、人波に混ざるように大通りに踏み出した──その矢先。



「オラァァ!!そこのイシュディアァァ!」


 

 デカい声が通りに響く。


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