俺と彼女の美味しい1年:笠原ルイの成長期(横)
突然、肥満化ネタが舞い降りたんです。腹肉フェチの皆様に捧げます。シリアス展開皆無のコメディーです。
俺は笠原ルイ。この前の4月で大学2年生になった。一浪しているので、年は20歳。俺は今、最高に幸せだと言っても過言ではない。なぜなら、人生初の彼女が出来て、彼女のおかげで長年の夢も叶ったからだ。彼女は2歳年上で、身長は俺よりも約30センチ低いものの(まぁ、俺がデカすぎるのだ)博識で美人、しかも毎日思いっきり俺のことを甘やかしてくれる面倒見が良いお姉さまタイプだ。妹に下僕のように搾取されてきた俺にとっては、まさに地上に降り立った女神である。
うん。不満はほぼない。
…この1年間でポッコリと贅肉がついた下腹を除けばな。
そう。容姿端麗、頭脳明晰、才色兼備な俺の彼女、入江ハルナ(22歳、大学院生)は、腹肉フェチの変態さんで、ひょろひょろもやしっ子だった俺は、彼女の手腕(?)により、この1年間で著しい肉体改造を遂げることになったのであった…
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ハルナさんと初めて出会ったのは、去年の4月の頭、まだ、桜が咲いているような時期だった。俺は新入生を勧誘せんと手ぐすね引いている諸サークルのテントの間を1人で当てもなくさまよっていた。ぼっちだったのには訳がある。それは、俺の容姿が大いに関連してくる。何というか、俺は話しかけにくいタイプであるようなのだ。まず、身長が2メートル近く。面白みのないクソ真面目そうな平凡顔で、シルバーフレームの眼鏡をかけている。しかも、一重だから少しキツク見える。髪は染めてないから真っ黒でまっすぐ。残念ながら愛想もあまりよくない。しかも、割と感情の変化が顔に出にくい。…こんな感じであるため、進級、進学する度に、友人が出来るまでのぼっち期間を過ごす羽目になるのがお約束だ。そして、高校まではまだ地元の友人がいたから良かったものの、大学は地元を離れて上京してきたから、真に友人が皆無だったのだ。そんなわけで1人でいろいろなサークルを見て回ることになったのだ。
その内に、何やら美味しそうな香りがしているのに気づいた。その時の俺にはその香りが、周囲の豚汁やフランクフルト、焼きそば何かと比べ物にならないほど魅力的に感じられたのだ。だから、まるで犬の如く、匂いをたどって香りの発生元を特定しようとした。
で、その芳香の先にあったのが「民族料理研究会」のテントで、おわしたのが入江ハルナ会長だったのである。ハルナさんはテントの下のパイプ椅子に一人でちょこんと座っていた。彼女の前には白いテーブルクロスがかけられた長机が置かれていて、その上に芳香を放つ木の実のパウンドケーキが一口大にカットされて、皿に盛りつけられていた。
俺はケーキをガン見した。すると、ハルナさんはにこやかに、「君も食べてみると良い、私の自信作だ」と言いながら、ケーキを一切れ差し出してくれた。丸のみするがごとくケーキを食べた俺は、感動に打ち震えた。嗚呼、なんとうまいものか。ハルナさんは、ケーキを食べ終わってもなおテントの前でフリーズしている俺に、もう一切れケーキを差し出してくれた。それを食べ終わると次の一切れ、またもう一切れ…。そんなこんなで、俺はパウンドケーキ1本丸々、一人で食ってしまった。
ハルナさんは、そんな俺の姿をいやな顔一つせず、優しく見守ってくれた。
そして、俺がケーキを食べきったタイミングで、
「こんなに喜んで食べてもらえると、作り手冥利に尽きるね。良かったら、今から部室に来ないか? 部室の冷蔵庫には他のお菓子もあるのだが?」
と誘ってくれた。
俺は一も二もなくハルナさんの跡を追って部室に行った。そして、カスタードプリンやらオランジェやらバニラアイスやらチョコレートタルトやらを貪るように食べた。
冷蔵庫に入っていた決して少なくない量のお菓子を全部食べてしまったところで、やっと我に返った。げっ、俺、とんでもなく失礼なことしてないか…?! 腹が満たされた幸福感がすっと引き、冷汗が出てきたのを感じた。俺は勢いよく立ち上がると、90度の礼をし、ハルナさんに詫びた。
「全部食ってしまって、申し訳ございませんでしたッ!」
ハルナさんは笑って俺の無作法を許してくれた。
「構わないよ。どうせ新入生に食べてもらおうと思って作ったものなんだから。まぁ、少しは驚いたがね。時に、君は甘いものが好きなのか?」
俺は恥ずかしさから赤くなった。
「ええ、甘いもの大好きです。そして、実は甘いものを腹いっぱい食べたいというのが長年の夢だったんです。というのは、俺、この容姿だから、お菓子屋に入ると浮くんです。みんなにぎょっとされるんです。だから、恥ずかしくて自分で買いに行けなかった。加えて、この容姿だから甘いもの好きだと思われなくて、みんな俺に甘いものを分けてくれないというか…。だから、お姉さんが俺にお菓子をくれたの、ホントに嬉しかったんすよ。ものすごく美味しかったし。だから、ついがっついてしまって…」
俺が恐縮のあまり小さくなっていると、ハルナさんが言ってくれた。
「なんだ、そのような事情だったのか! 気にすることなんてないぞ。別にどんな容姿であっても甘い菓子を好んでいけないということは無いのだから。そうか、分かった。私が君の夢を叶えるお手伝いをしようではないか! だから、我が『民族料理研究会』に入会したまえ。毎日、菓子食い放題。ついでに、私の手料理も食い放題だぞ!」
そんな好条件に否やは無い。
「はいッ! 俺、入会します! 俺、言語学専攻1年、笠原ルイです、よろしくお願いいたします!」
「そうか、笠原ルイよ。共に、民族料理を研究しようではないか。私は会長の入江ハルナ、大学院で哲学を研究している。よろしく頼む。」
俺たちはがしっと握手を交わした。
「あー、因みに会員はあと5人ぐらいいるのだが、普段はあまり部室に来ないのだ。学期に数回、持ちよりの食事会をするときにはみんな来るぞ。みんな民俗学専攻だから、各国料理が食べられる。期待していると良い。それに、私は毎日部室に来ている。部室が研究室代わりのようなもんだな。ついでに夕食作って食べて帰るのが習慣なのだ。お近づきの印だ。今日は笠原も食べていくと良いぞ。」
そう言ってハルナさんは「簡単なもので悪いな」と言いながら、新じゃがとそら豆のグラタンとミネストローネをササッと作ってくれた。お手製のホワイトソースの濃厚で美味しいこと。感動してしまった。ビールにも良く合った。食後には、ハルナさんがどこからともなく手品のように出してきた苺のタルト(ホール)が登場した。苺はもちろん、苺の下のカスタードクリームもタルト生地も信じられないぐらい美味かった。嗚呼、そう、俺は、この短時間で、ハルナさんにすっかり胃袋を掴まれてしまったのである。ハルナさんはハルナさんで、自分の料理をこれほどまでに気持ち良く食べてくれる若者を発見して、いたく感動したそうだ。帰り際、ハルナさんは言った。
「笠原、こんなに喜んで食べてもらえると私もやりがいがある。毎日だいたい19時には夕食を食べるから、良かったら明日からも一緒に食べないか?」
俺は一も二もなく同意した。
こうして、素晴らしき美食の日々が始まったのであった。平日は、夕食を共に食べ、夜食と朝食のお弁当を持たされて帰された。
大学生活初めての金曜日には「週末は、私の家で一緒に食事をしないか」と誘われて、結局週末もハルナさんの下宿で一緒に過ごすようになった。一緒に食事をするだけでなく、ハルナさんは料理の方法や勉強も教えてくれた。
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それから、だんだんなし崩し的に、俺がハルナさんの下宿に入り浸るようになり、ほぼ同棲に近い状態になった。ハルナさんも、俺のことを住まわせてくれるし、「私は笠原のことが大好きだぞ」と言ってくれるし、俺のことをカレシと見なしてくれていると思う。ただ、我々の交際は極めて清く正しい、プラトニックなものである。少なくとも俺としてはどろどろとした欲望が無いわけでもないのだが、そういう行為を実行する猶予もないほど、俺は料理、食事、そして勉強に取り組んでいたのだ。つまり、俺の欲望は、性欲<知識欲≦食欲なのだ。一番多いのが「食欲」というところが破滅的に格好悪いが、事実であるので仕方がない。
そして、俺は知識欲と食欲の赴くままに、ハルナさんに教えてもらって、自分でも料理をするようになった、深夜に。ハルナさんと過ごす時間が増えていく毎に、俺の料理もレパートリーも増えていったから、すごく嬉しかった。始めは失敗ばかりだったけど、だんだんハルナさんに美味しく食べてもらえるようなものが作れるようになってきたし。失敗料理とハルナさんに食べてもらった料理の余りはそのまま俺の夜食になるから、達成感(と満腹感)もあるしな。
ハルナさんは、俺の「甘い菓子を腹いっぱい食いたい」という夢もこれ以上ないほどに叶えてくれた。毎食デザートがつくどころか、一日に何種類も菓子をいっぱい作ってくれた。毎日、喜び勇んで、菓子をたらふく食べた。今までの人生で菓子を食べられなかった分、精力的に食した。俺が菓子を食べているとハルナさんが、
「そうかそうか、そんなに楽しいか。菓子を頬張る笠原は超絶可愛いらしいぞ」
と、俺の頭をなでなでしてくれたり、俺の膝の上の上に登ってきて「あーん」とやってくれたりして、最高に嬉しかった。ついでに、世界中津々浦々の菓子にも詳しくなることが出来たのも良かった。
ハルナさんは、勉強を教えるのもうまかった。第2外国語のドイツ語の分からないところも教えてくれたし、必修科目の参考文献も教えてくれたし、期末レポートも添削してくれた。だから、俺はすっかり大学の勉強が楽しくなって、かなり真面目に予習・復習に励んだ。故に、極めて優秀な成績を修めることが出来た。ハルナさん、さまさまである。
そんなこんなで、大変充実した1年を過ごしたのである。
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が、裏を返せば、超インドア&美食+大食い生活の1年に相成ったわけである。
俺は最初の1か月で5キロ太った。でも、浪人生活中の心労によりがりがりにやせ細っていたのであまり気にしなかった。
が、そっから半年で15キロ太り、だんだん下腹が出てきて、服のサイズがどんどん変わるようになってちょっとまずいかなぁと思った。
でも、ハルナさんが毎日何回も、俺を抱きしめながら、
「笠原、私は君が大好きだぞ!」
と腹に頬擦りしてくれるのが嬉しくて、
「笠原、これぐらいどうってことないぞ。私は、君がもっと太っても全然気にしないから、この料理も食べると良いぞ?」
というハルナさんの甘言に乗せられ、
気づけば、1年間で30キロの大成長を遂げていた訳である。
しかも、ハルナさんの謎の手腕により、顔や手足にあまり脂肪がつくことは無い一方で(でも、流石にがりがりからぷにぷにになったけど)、立派なビール腹になった。妊娠6か月ぐらいかな(笑)。下手に手を上に伸ばしたりなんかすると服の下から、というか、ズボンの上にというか、立派な生腹が世間様の目にさらされるという状況が容易に生じうるようになり、恥ずかしいことこの上ない今日この頃である。ひとまず、図書館と電車は要注意スポットだ。
が、ハルナさんは俺のビール腹がイタくお気に入りで、
俺の腹の拡大を、妊婦さんが胎児の成長を喜ぶがごとくに嬉しがって観察されている。まぁ、俺もハルナさんにお腹を抱っこして、ほっぺすりすりしてもらったり、腹肉をいじくられたりするのは正直嬉しいから恥ずかしいながらも良いんだけど、でも、わざと俺が去年まで問題なく着ていた服を着させるのだけはやめて欲しいのね。お腹が収まらなくて、ズボンのファスナーが閉まらないの知ってるでしょ、もう。
でも、俺も食い意地が張ってるから、というかおバカだから、ハルナさんに、
「おい、笠原、君の腹肉は最高だな! この絶妙な柔らかさ、大好きだぞ。だが、もう少しビール腹になってくれるとなお良いのだが。私の腕に余るほど大きく成長してくれたまえ。ほら、今日は君のためにクレーマ・カタラーナを作ってみたぞ。笠原はカスタードクリーム好きだものな。因みに夕食はラザニアだから期待していると良い。最高のホワイトクリームのために、北海道から上等なバターを取り寄せてみたのだ。だから、その見返りに、私が君の妹君からお借りした、君の高校時代の制服を着てみるが良い!」
「絶対にイヤ! ハルナさんも俺が着れないの分かってるでしょッ! というか、妹と結託して何をしているんだか…」
「なにィ! 笠原のお腹は私の生きがいなのだぞ。それを奪うとは、腹肉の持ち主たる笠原でさえも許されないのだ。しょうがない。ほら、入江ハルナ謹製のオレンジピールを使ったオランジェをあげるから、暫し大人しくしていたまえ。」
「わ、俺、オランジェ、大好きです!」
「ほら、レモンピールにはホワイトチョコをあわせてみたぞ。」
「わ、こっちも美味しいですね!」
というように、食い物につられているうちにぺろっと着替えさせられ、お腹を揉み揉みされたりしちゃうのである。
そして、そんなハルナさんが大好きで、こんな自分も案外嫌いじゃないんだよね。ハルナさんが喜ぶなら、生活習慣病に気を付ければそれでいいんじゃね、って。
そういうわけで、俺は今、最高に幸せと言っても過言でないわけ。
[入江ハルナの言い分]
ああ、私が腹肉愛好家で、笠原の現在鋭意発展途上の腹肉を世界で一番愛しているということは否定しない。しかし、実際に大食いして太ったのは笠原ではないか。私は、別に君を太らせようとしていたわけではないのだが…。はあ、まぁ、君が食べている姿を見るのが好きだから、たくさん食べて欲しいなぁとは日々考えるところであるが。なんだ、笠原、貴様、全部、私のせいだと言いたいのか? 確かに、私にも責任の一端があることは認めるが、全てではないだろう。君だって私の料理を楽しんで食べていたではないか。それに、量はともかく、私も1年間、笠原と同じ料理を食べてきたのだが、私には特に大きな体重の増減はなかったぞ。
あああ、笠原、そんなに落ち込まないでくれ。私は、別に君を責めているわけではないのだ。むしろ、君が太ることで更に君のお腹が素晴らしくなることを望んでいるぐらいなのだ。ん? 三段腹はどうか? 私はビール腹は好きだが、段腹はそこまで好かん。フェティシズムというのは難しいものなのだよ。まぁ、だから、出来ればビール腹でい続けてくれると嬉しい。でも、可愛いルイのお腹ならどんな腹でも良いがな。ほら、照れてないで、触らせてくれ。うーん、最高…
(続かない。末永くお幸せに。)