第九二話……二つの騎士団2
田谷は何度か引き金を引いた。乾いた音がドームの中に反響する。
放たれた銃弾は六番のスクリーンに命中し、瞬時に蜘蛛の巣でも張ったかのように白く濁った。数発の弾丸が穿ち、黒い石碑のようなスクリーンは粉々に崩れた。
「さすがは最新式のナイツ特殊高速弾。こんな小型のピストルから発射されたとは思えないほどの威力ですね」
「これは……!?」
女は田谷の銃と銃弾に瞠目し、内心舌を巻いた。それと言うのも、破壊した黒いスクリーンだ。特殊強化ガラスが五層に覆われ、その上に黒い防弾防刀の耐衝撃塗料が塗られている。発光はその塗料の下から漏れ出たものだった。
「意味のない事を」
破壊されたはずの六番スクリーンから声が漏れる。スピーカーを損傷したのか、音にノイズが混じっている。
「ふふ、意味はありますよ。これの威力を知っておきたかったのでね」
「……何?」
「田谷?」
円陣に囲まれた六番スクリーンのその裏。ライトもなく暗く暗幕のようなもので覆われたその場所へと田谷は足を進める。
「ライトクリスマス。その時、それに携わった多くの科学者、研究者がいた。東京での光の暴走に巻き込まれ生き残ったのは十三人、その内の一人は後に死亡しています」
「ちょ、ちょっと待って、生き残ったのは一人でしょう? その一人が最後の証言をした後に亡くなったって、あなたが言ったのよ」
「ええ、そうです。それは表向きの全貌。真相は……」
「や、やめろ!」
田谷は、今度は何もない黒い壁に銃を向け引き金を引いた。強固なはずの壁は数発の銃弾によって歪み、砕け、それは露わになった。
「これ……」
崩れた壁は円陣に並ぶ黒いスクリーンと同じ素材の厳重な壁であり、その向う側には空間が存在した。そこには十二の巨大な水槽のようなカプセル。そしてそこに安置されていたのは十二の人間の脳だった。水槽はいくつもの配線が繋がれ、コンピュータにより制御されている。
「やめろ! 見るな!」
「近づかないで!」
田谷達の後ろで黒いスクリーン達が狼狽と悲哀に騒ぎ立てる。
「な、なんなの!?」
「体は死んだ、それでも生き残った……いや、生きる事にすがった、そういう事です」
田谷は淡々と答えると不気味な光を放つ水槽に今までと同じように銃口を向けた。
「や、やめろ!」
「やめてくれ!」
「やめて! 死にたくない!」
「もう堪能したでしょう? あなた方の時間はすでに終わっているのですよ」
田谷は嘲笑と憐れみの入りまじる瞳を向けたまま、少しの躊躇もなく水槽すべてを破壊した。水槽から培養液と共に部屋には十二の慟哭が溢れ出た。
「真相とは、知るほどに醜いものです」
「……」
断末魔を背に、二人はその場所をあとにした。