第九一話……二つの騎士団1
長い廊下を二つの影が行く。
一人は迷うことなく、もう一人は周囲を窺いながらその影についていく。戸惑う影は疑問に思った。初めてくる場所のはずなのにどこかそんな気がしない。
まるで見た事のある光景だ。
「ねえ、ちょっと……」
「安心してください。ここにはちょっとした用事があるだけですから」
前を歩いていた男はそう言って、重厚なゲートの前で足を止めた。
「ここ?」
男に案内され、ついてきた女はその古めかしいゲートを怪訝な顔で観察する。よく見ればゲートにはほとんど消えかかってはいるが文字が書かれていた。
「これって!? ナイツ?」
掠れた文字からは完全に判読はできないが、おそらくそう読むのが正しい。
「ええ、ここはナイツ本部、保守派幹部の方々が集まる場所というわけです」
「本部? ここが?」
「ええ」
男はさして乱れもてもいない服装の襟を正すと、手慣れた手つきで電子ロックを解除に掛かる。女はその光景に注視する。
三重にかけられた八桁のナンバーロックの後にアルファベットを含んだパスワードを二回、その後生体認証の厳重さだ。
男は難なくゲートを開封すると、分厚いゲートを軽くノックした。
「それ、意味あるの?」
「入室のマナーですよ。形式的なものです。さて、仕事をしにいきましょうか」
開放されたゲートの向こうには明かりはなく、ただ暗闇が覆う。
黒い壁、黒い床、黒い天井。
入口から差し込むわずかな光でも目が慣れてくれば、その部屋の広さと形状を知る。
かなりのテニスコート二面分ほどの広さのドーム状の空間。その高さは見上げるほどだ。
そして印象的なのは、部屋のほぼ中央、円陣に置かれた遺跡を思わせる黒いスクリーン。
「……」
全く同じだった。だから、ここに来るまでに感じていたのだ。女は思った。ここは自分の知る「ナイツ」本部と同じ構造であると。
「……田谷か、遅かったな」
「申し訳ありません。少々手間取りまして」
不意に中央のスクリーンが発光すると、どこからか部屋の照明のスイッチが入れられた。
「結果はどうだった?」
「クーリエは? マリアは守れそうか?」
黒いスクリーンは次々に発光し、それぞれに言葉を発する。
「いえ、オリジナルは現在逃亡中。それによって、大部分の減少が予測されます」
「何!?」
「田谷、貴様、我らの悲願を忘れたのか!?」
田谷の淡々とした報告に、黒いスクリーンたちは怒気をあらわにする。
「人類すべてに力を」
「人類すべてに進化を」
「我々の繁栄のために!」
バラバラと発光を繰り返すスクリーンと部屋に広がる声に、女は思わず耳を塞ぎたくなった。
何なの? こいつら、こいつらの声、この感じは……。
「ええ、存じております。しかし、あの力を取り出し、意図的に別の人間に移植統合する事は不可能だという事がわかりました」
「!?」
「そんな事をすれば、それはもう人とは呼べない物が出来上がる……まあ、あなた方に言っても意味のない事ですかね?」
「なんだと!?」
「それにね、あなた達のような体を失ってまで生にすがろうとする老人たちに未来を語られてたまらない」
田谷はスーツ下のホルスターから銃を引き抜くと、それを六番目のスクリーンに向け構えた。