第八九話……未来を変えるために1
ハッとして日倉皐月は顔を上げた。
情報交換のあと、空達は佐藤達の野営で食事などを御馳走になった。食料をそれほど用意しているわけでもなかった空達にとっては幸運という他ない。
食事の時に起こしてもらった皐月だったが、いつの間にか寝てしまったようだ。気が付くとユキが寄り添いながら眠っていた。
見れば、食事の片づけや装備の確認、通信などを行っている隊員に混じり、サヤが隊員達に遊んでもらっていた。そこから少し離れた所で佐藤と空、その横に冴木の姿もあった。
「……」
佐藤らが与えられた研究所の情報は空達を驚愕させた。研究所の壊滅、そしてその嫌疑が自分達にかかっていたという事。佐藤達もまた空達の話に驚きを隠せないでいた。
能力者である彼らのDNAを使い、生物兵器を作り上げたという事、そしてその元となるものが第六研究所へと保管されているという情報。
佐藤は空達の話を聞いて頭の中で事を整理しようとつとめた。
生物兵器、能力者、第六研……。
あの日、あの大掛かりな輸送先もまた第六研究所だった。そして、部隊はすべて帰還するのではなく各地に駐留を命じられた。
彼らの脱走そのものも計画されていたって事か?
「……」
しかし、何故だ? 誰がそんな計画を?
「佐藤さん、ちょっとぉ、いいですかぁ?」
「おっ? おお、日倉、皐月ちゃんだっけか? どうしたんだ?」
突然声をかけてきた皐月に佐藤は慌てて振り返る。しかし、佐藤が振り返っても皐月はまだ言葉を言い終えていなかった。
皐月と如月、両方と話をした佐藤だが、初めに会ったのが如月であったせいか、どうしてもその印象が強い。顔や体つきは同じはずなのに、表情やしゃべり方がまるで別人である。
「大高さんという……」
「佐藤隊長! 大高隊が実験体を発見し、本隊に支援を要求した模様です」
「何!?」
飛び込んできた奥山の言葉に佐藤は思わず立ち上がった。
「どうしたの? 皐月?」
駆け寄って来た奥山と一緒に猫のように走って来たサヤが不思議そう皐月を見上げる。
「むぅ……」
せっかく言おうとした事を奥山に言われ、皐月はふくれた。
「一体、誰が発見されたんですか!?」
「いや、そこまではわかっていない。だが少なくとも発見は確実だろう。大高って女は性格は何だが、そこら辺は優秀なんでな。本隊への支援要求だって、確実じゃなきゃやらん」
「そんな……」
空の脳裏に行動を共にしなかったメンバーの顔が次々に浮かぶ。美奈、岡島、鬼崎、千堂……その誰でもあってほしくはない。
「本隊が動けば、かなりの数が動く事になると思う。さて、どうするか……」
考えられる可能性は二つ、このまま第六研まで彼らを送るか、それとも発見されたという実験体の救援に向かうのか……。
佐藤が悩んでいると、皐月が彼の前を通り過ぎ空の前に立った。
「……日倉?」