表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第五章 守衛団
86/167

第八四話……暗躍の千堂3

「長谷川さん!」


「持ち場を離れるな、千堂に逃げ道をくれてやるな」


 隊員の呼びかけに長谷川は思わず声を荒げた。夜が深い。闇が辺りを覆っている。


「たかだか、相手は少年一人です。それにこの暗さなら……」


「お前は千堂を知らないんだったな。あいつにはこんな暗闇は関係ないんだ」


 暗視ゴーグルやセンサーも持つ隊員達と長谷川から奪った銃、そしていつの間に抜き取られていたナイフしか持たない千堂に、彼の警戒心は高まったままだった。

 年下の千堂とは、行き場のない、喰うに困った子供達を集めた戦闘訓練所で出会い、共に訓練を受け、同じ部隊に配属された。

身体能力、射撃、近接格闘、特殊工作など、何でもソツなくこなした千堂だったが、何かが特出して優秀というわけではなかった。

 ただ、今のような人の裏をかくような事、そして、夜間戦闘を想定した暗闇の中での訓練は得意としていた。それがなぜなのか、長谷川には未だ理解できていなかった。

 ……あいつは能力者だ。人の心を読む。

 それは千堂が研究所に行ってから知った。

 長谷川達は少数で廃墟に一か所に固まった。散開していては仲間同士で撃ちあう可能性もある。


「出てこい千堂、お前はもうここから逃げる事はできない」


 長谷川の声が廃墟の中で反響した。

 返事はない。

 張りつめた静寂が耳鳴りのように耳を塞ぐ。

 千堂はどこかに潜んでいる。外の包囲する目を掻い潜り、ここを突破する事は難しい。

 長谷川は視界を巡らし、出入り口が今自分の入って来た場所しかない事を改めて確認した。冷静に考えれば、身を隠す所もそれほど多いわけではない。


「俺達が命令されたのはお前らの捕獲だ。殺しはしない」


 その瞬間、暗闇で何かが動いた。

 長谷川達の注意がそちらに向いた瞬間、銃声が無音の闇を切り裂いた。

 長谷川は反響した発砲音に、どこから撃ったのか一瞬判断が遅れた。その横で隊員の一人が倒れた。


「……!」


「スガ!」


 もう一人が思わず声を上げた。

死んではいない。防弾スーツが銃弾を防いでいる。とはいえ、意識が逸れた所に与えられた衝撃は予想以上に体に浸透する。完全に虚を突かれた上に、急所をピンポイントで狙撃され、スガはそのまま気を失った。


「この暗闇で……!?」


「動揺するな!」


 長谷川の声もむなしく、二発目の狙撃でその男も撃たれ気を失った。


「ちっ……」


「さすがの練度や、警戒心の穴を見つけるのが大変やったで」


「千堂……!」


 いつの間にか、長谷川の後ろに千堂が立っていた。今度突きつけられているのは、偽物ではない。長谷川から奪った本物だ。


「すまんな、暗闇でも俺はお前らの色は見えねん。その意識がどちらを向いているかもな」


「……」


「聞きたい事が山ほどあるけど、俺は行かなあかんのや……」


 千堂の言葉を長谷川はそのままの姿勢で聞いた。ここにいる三人をこうまで手玉にとった千堂ならば、外に配置した人間を突破する事も可能だろう。

 長谷川の色が変わっていく。


「あいつがこちらに向かっている。到着は間もなくのはずだ……」


「長谷川……」


「うまく……!」


 不意に長谷川の体がグラリと崩れ落ちる。


「!?」


 親愛の色を纏ったまま、親友は頭部を撃ち抜かれ絶命した。


「敵に情報を漏らす裏切り者には制裁が必要だ、なあ? 千堂?」


「……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ