第八三話……暗躍の千堂2
夜闇が降り立つ廃墟の街に、足音もなく近づく黒衣の男達。その兵装の重量にも関わらず、練度の高いその歩行技術は、彼らが特殊な訓練を受けた部隊だという事を示している。
先行する長谷川は、物陰に隠れながら、千堂達が隠れた建物に目を向けてから、後続に手を振って合図を送る。
後続は建物の周囲を回り込むように、配置についた。
長谷川は周囲を確認し、それぞれの準備完了の合図を確認すると、長谷川は建物の中へと先行して突入した。
「……!?」
長谷川の血の気が一瞬にして引いた。
突入した長谷川のこめかみに何かが押し当てられたのだ。
バカな……? どうして?
「戸惑いの色が出てるなぁ、長谷川」
「!?」
彼はハッとしてその声の方向に銃口を向けようとした。しかし、それよりもわずかに早く、自分の腰に装備されていた銃を抜かれ、今度は本物の銃口を頭に突きつけられた。
「くっ……」
長谷川は苦虫を噛み潰したような顔で動き止めた。もっともその顔はフェイスマスクで見ることはできなかったが。長谷川のすぐ裏で続いたメンバーも同様に硬直している。
「千堂……お前……」
「ああ、すまんな。俺はそっち側やないんや」
「……してやられた、という事か」
千堂の接触も、そして今の行動も。千堂ははじめから銃など持っていなかった。暗闇でしかも不意に、銃に似たような物を頭に突きつけ、生じた隙に長谷川の銃を奪ったのだ。
「ちなみに言えば、俺以外はもうここにはいない」
「……信じられるか」
長谷川が視界を巡らせれば、そこには彼らが逃亡で使っていた車両がそのままになっていた。しかし、人の気配はない。
「ああ、信じるやろ? お前は納得した色しとる」
「ちっ……」
「元仲間のよしみや、このまま見逃してくれたら、命までは取らん」
「そういうわけにはいかんさ、研究所を壊滅させたお前らの仲間をこのままにしておくことはできんからな」
「なんやて?」
今度は千堂に隙が出来た。長谷川は千堂を弾き飛ばすと、ライフルを構えようとした。千堂は咄嗟に建物の闇に紛れ、長谷川達の視界から姿を消した。