第八二話……繰る者2
ワタシハ、ダレダ? ナゼ、ココニイル?
ソレは自分の中から湧き上がる答えの出ない疑問に、さらに疑問を投げかける。
何故、こんな事を思い始めたのだろう、と。
ソレに答える者はなく。
ココニイル、リユウ、ココニイナケレバナラナイリユウ、ココニワタシガソンザイシナケレバナラナイリユウ。
疑問は止めどなく降る雪のように、思考を白く染めていく。
ワカラナイ……。
白い世界が何か示すことはなく、そこはただ感情のない無味無臭無音の世界。
イノチ。イノチ。イノチ。イノチガルカラ、イキテイル……ナンノタメニ……?
何度も何度も繰り返す問答の中で、白い世界にまた疑問の雪が降る。
ソレは変わり始めていた。
心が動き始めていた。
「ふうぅ……」
畑中はナイツ本部に用意された自分の部屋を見回した。相変わらず殺風景な部屋だった。
仮設とは違い、私物も多数あるが、それでも部屋のスペースは余っている。
彼女は部屋に入るなり、服を脱ぎながらバスルームへと向かった。足跡のように服が脱ぎ捨てられ、護身用に常に携帯しているガンホルダーを外し、バスルームのすぐそばに置いて、熱めのシャワーを浴び始めた。
強張っていた身体が弛緩していく。
身体を洗うわけでも髪を洗うわけでもなく、ただお湯を浴び続ける。それは彼女の儀式のようなものであった。
「……」
しばらく浴び続けたあと、お湯を止めると彼女はクローゼットからタオルを出して身体に巻きつけ、再びガンホルダーを回収する。
深津がいたわずかな時には落ち着いていたが、一人になるとこの癖がまた出てしまう。
銃がそばにないと不安になるのだ。
畑中はそのままあまり使用された痕跡のないキッチンへ向かうと冷蔵庫の戸を開ける。
缶ビール数本とすでに封が開けられた牛乳が一パック。他には何もない。彼女は 牛乳を手にとったが、すでに賞味期限が切れていた。
中身は三分の一ほど残っていた。
「うん?」
パソコンのディスプレイが何やら点滅している。
「やれやれ、人使いが荒いわね……」
仕方なしにかわりに手にとったビールを片手に、畑中はパソコンの前に立つと、幾つかのキーを指で弾いた。
「……なるほど」
少しの間、様子見って事ね……。
そう思った途端、急に眠気が頭を締め付ける。彼女は手にして缶ビールを開け、一口だけ身体に流し込むと、自分のベッドへともぐりこみ、静かに眠りについた。
ぼんやりと月の明かりのさす部屋で。