第七五話……日倉の帰還1
「……如月君」
「……?」
「まだなのか、君の仲間と言うのは?」
「ええ、もう少しです」
運転する奥山の隣で、如月は婉然として微笑みながら足を組んでいる。
先ほどから如月の案内で車を走らせているが、その案内はかなり変則的だった。建物や道を関係なく、進路変更をするため悪路や障害物など関係なしに行かなければならない。
どこかで落ち合う約束をしているわけではないんだな。
彼女の案内を佐藤は興味深い観察していた。
確かに彼女の指定する方には車が走った痕跡があった。もちろん場所によっては確認できないような所もあったがそれでも彼女の指定する方向に行けば、またその痕跡を追うことができた。
ただ、彼女がそんなものを指標にしているようには思えない。
彼女は約束の場所を目指しているというよりは、自分の仲間が走った道をそのまま追っているかのようだった。
「もうすぐ……そうですね、そこを右に曲がって直進してもらえますか?」
「……ここを?」
奥山は思わず聞き返す。彼も佐藤と同じように真新しい車の痕跡を確認していた。その痕跡は直進しているのだ。
今まで線路の上を走る列車のように、その痕跡を追ってきたのに、ここで曲がれば、明らかにその痕跡から外れることになる。
「いいのかい?」
「ええ、そこを。曲がったら、直進、走るとくの字に折れて壊れた信号の十字路があるので、そこで止まってください」
「くの字に折れ曲がった信号……。ところで君はこの辺には来た事はあるのか?」
「いえ」
「そうか」
佐藤の質問に如月は即答する。佐藤は奥山に彼女の指示通りしろと目で合図を送る。
奥山が右にハンドルを切ると、比較的損傷の少ない舗装された道だった。
日の落ち始めた空はどんよりと光を吸い込み、夜が彼らの後ろから追ってくる。
奥山が速度を上げようとすると、ちょうど交差点が見え始めた。くの字に折れた壊れた信号機、十字路、如月の言った通りの場所だ。
「あの交差点の真ん中で止まってください」
如月の言う通り車は交差点の真ん中で停車させると、彼女は一人車を降りて、道路の真ん中を歩き始めた。
「お、おい、どこに行くんだ!?」
「私が立っていないと、みんなが警戒してしまうでしょう。もうすぐ来るわ」
言い終わるか終らないという所で、道の向こうから車が走ってくるのが見える。過去に守衛団で使われていたものだ。佐藤達にも見覚えがある車種だが、現在では使われていないはずのものだ。
その車に向かい、如月はゆっくりと手を上げた。夕暮れの風が彼女のスカートと髪を流しながら、廃墟の中で佇んでいる。何も知らないものが見たら、その容貌と歌声で船を沈めたローレライの如く、視線を奪われ幻惑されハンドルを取られてしまうだろう。
如月の前で車が停車した。運転席から少年が一人姿を現した。
あれが、彼女の仲間か? 能力者か……?
佐藤達はその様子を見守る。ふと佐藤は日倉の様子がおかしい事に気が付いた。
なんだ? さっきと雰囲気が変わった?
「日倉! 無事だったのか!」
「空さぁん!」
日倉はパッと笑顔になると、近づいてきた空に抱きついた。