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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第四章 覚醒
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第七一話……森の王7

「!? なんですって!?」


 美奈の言葉に上村は思わず声を上げた。

 捜索のために犬を放ったのか?

 ハッとして溝口の用意してくれた薬草が張られた足を見た。

 私の血……。

 内心舌打ちをして立ち上がる。鋭い痛みはもうない。出血も完全に止まっている。ただ、まだ全力で走ることはまだ無理だ。

 あの犬がいるという事は、守衛団もそばにいるはず。

 ……私が囮になって、その間に彼らを逃がせば……。


「とにかく逃げて、ここは私が……」


「まわりにもいる。囲まれている?」


「……」


 美奈は犬達の話でも聞きとったのか、森の中で騒ぐ鳥達から情報を得たのか、周囲を見回しながら顔を強張らせる。


「もう少し時間を稼げるとおもったんですけどね」


 溝口の顔には今までのような余裕はない。圭祐も茜もその判断を上村に求め、視線を向けている。

 ……逃亡はここまでか。普通に考えれば、彼らは実験体であるこの子達を捕獲するために命令を出されているはず……。ここで殺されるという事ないはず。


「さて、どうしたものかしらね?」


 上村達は見えない圧力にジリジリと後退し、森の王のもとに身を寄せた。

 それにともない先行する大型犬が森から姿を現し、そのあとを武装した人間の姿が見え隠れしている。


「……あれは?」


 目を凝らす上村は思わず声を漏らす。


「どうしたんですか?」


「どうやら相手はやる気満々みたいよ」


 特殊装備の隊員。携えている武器はどう考えても捕獲を想定したものではない。

 あいつら何考えているのよ、猛獣狩りでもする気?

 あの装備から見ても、すでに交渉の余地はなさそうだ。

 おそらく、私一人が犠牲になっても結果は同じ。やはり、もう……。


「戦うしかないかしらね」


 上村は護身用に常に持っていた小型のピストルに手をかけた。何とも心元ない武器だ。射程も弾の数も相手の武器には遥かに及ばない。威嚇に使うのが関の山だ。

 上村の覚悟を察したのか、三人の顔色も変わる。圭祐は真っ先に立つと「戦うんだね……じゃあ、何かいるね」そう言って森に向かい手を上げ、意識を集中させた。

 それに呼応するように、森がざわめき始める。不思議な角度で木が揺れ、砂や小石が渦を巻き、圭祐を目がけ、集まってくる。

 車で逃げていた時に、葉っぱを集めたあの要領だ。しかし、その規模はあの時よりも遥かに大きい。


「圭祐君……!?」


 圭祐の体からわずかに光を放っている。

 実験体である彼らの今までの実験からもそんな現象は今までに確認された事はない。

 能力者でもない、研究者でもない上村でさえ、彼のその状態が普通でない事はわかる。

 これ、彼の本気?

 もしかしたら、これで何とかなるかもしれない。そう思うと同時に、彼の体から放たれる光に、上村は言いようのない不安を感じていた。


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