第七十話……森の王6
「……」
溝口の口から語られた王の言葉に、上村は思考を巡らせ、頭の中で整理しようと必死だった。
王の言う事はこういう事だ。
東京消滅の時に放出された光の粒子はこの辺り一帯に降り注ぎ、その影響を特に受けたのがこの森の王だと。上村の知る常識では、東京で起きた最後の光の出現を含め、ライトクリスマスと呼ばれていた。光の源になった物質はその時に失われたというのが通説だった。しかし、王の言い分は違う。光は四散し、各地に散った。その流れる光の尾に触れた王と、この森は急激な変化をしたのだという。
飛んでいった光はどうなったのかしら?
王の話から察するに、消滅した光は消えたのでは、どこかへ飛んでいったという事になる。それは、一体どこへ行ったのだろう。もし、光源の影響でこれほどの事が起きているなら、その飛んでいった先には余程の事が起きているに違いない。
でも、そんな話は今まで聞いた事はない。あの研究所の人間の好きそうな話なのに……。
「みんな、今、どの辺にいますかね?」
ふと溝口がそんな事を言った。
「何もなければ、すでに到着しているかもしれないわね。まあ、たぶん一番早いのは聖君達かもしれないわ」
空も千堂も陽動に動いていくれたが、空の側には日倉がいる。彼女がいれば、色々と安心だ。そう上村は考えていた。彼女の予知能力は強力な能力だ。日倉皐月は能力に振り回されないように普段はあのようにしているが、能力に適応するために分化した人格である如月が活躍してくれるに違いない。問題は、少々気分にムラのある彼女がやる気になるかどうかだけだ。
千堂の方には鬼崎弥生がいる。彼女の能力の能力がうまく発揮されれば逃亡の助けになるに違いない。
空を見上げればすでに日は傾き始めている。何も問題がなければ、聖や宮沼達が到着するに違いない。
「あれ?」
車座で座りながら実を食べていた美奈が何かに気がつき顔を上げた。
「どうしたの?」
「何かいるよ」
彼女の視線を追って木々の合間に視線を凝らす。しかし、何も見えない。何かいるように見えない。四人は思わず息をひそめ、耳を澄ます。風に紛れて草を分け、踏む音がわずかに聞こえる。
「な、なに?」
「犬がいる」
「犬?」
野犬か?
これだけの森の中なら何か動物がいたとしても不思議ではない。もしそうだとしても美奈に交渉してもらえば済む話だ。おそらく危険には及ばない。
上村はそう思いながら、もしかしら自分が一番お荷物なのかも、と苦笑いする。
「首輪がついてる……」
「首輪? 飼われているいるのかな?」
目を輝かせる茜とは対照的に美奈の顔色は変わっていく。
「どうしたの?」
「あの子達、私達を探しているよ!」