第五話……ファーストとセカンド
辺りを見渡しながら、頭を掻いてみる。
さっきもここに来たよな……?
ここに来る時に、案内役の背中を見ながらついてきたせいか道を全く覚えていなかった。
同じような壁、同じような天井、照明、曲がり角。通りかからない人。
つまり完全な迷子だった。
行き先が不明な上に、戻る道もわからない。
山崎の検査が終わり、解放された空は自分の部屋に向かう途中で道に迷った。
「ったく、広すぎるんだよ」
悪態をつきながら、彼は通路の壁を背にして座り込んだ。
もう結構歩いたし、正直疲れていた。
歩いても迷うだけなら、ここで誰かが通りかかるのを待ってみるのもいいだろう。
空は一人腕を組んで天井を見た。
空調の音。
温度は通路であっても管理されている。
窓はない。
空は自分が地上にいるのか、地下にいるのか、それすらよくわからなかった。
「……」
空は山崎とのやりとりを思い出していた。
問診と触診、それから何やら怪しげな計測器を使った検査。その検査が何を意味しているのかは空にはよくわからなかった。
ただ、わかったこともある。
あんまり人間扱いしてくれるってわけじゃないんだな。
上村も山崎も、単なる情報収集の道具でしかないということだ。
「こら!」
「!?」
男の声。
空は反射的に周囲を見回した。しかし、その姿はない。次の声を聞き逃さないように、慌てて立ち上がると、耳をすませながら身構えた。
「お姉ちゃん待って!」
「にゃあ!」
予想に反して聞こえてきたのは女の子の声だった。その後には猫の鳴き声が続く。
「こっちか?」
空は急いでその声の方へと走った。
「!?」
ドアが勢いよく開けられると、一匹の猫が飛び出した。そのあとを白衣一枚だけ
を羽織った十歳ほどの女の子が追って出た。
猫は、軽い足取りで廊下を蹴ると、空の膝を駆け上り、肩を踏み台にして頭を飛び越えていった。
「待ってよ!」
「!?」
白衣の女の子は猫と同様に空の頭を跳び越そうと考えたのか、猫と同じように勢いよく廊下を蹴った。しかし、女の子は人間。そんな跳躍力があるはずがない。
「無理だろ!?」
「ありゃ?」
女の子は空中で失速すると、そのまま空の顔にしがみつくように不時着した。
「ちょ、ちょっと……!」
空は女の子を抱えながら二、三歩踏ん張ったが、バランスがとりきれずに倒れ、女の子はしっかりと空の胸の上に着陸したのだった。
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「にゃあ……」
「ちょっと遊んでほしかっただけなんだよ、本当に……」
「フッー!」
女の子が猫にペコリと頭を下げるが、猫は威嚇するように毛を逆立てた。
どうやら、猫の機嫌は相当に斜めのようだ。
「ファースト、セカンド、早く部屋に戻れ。特にファースト、お前が戻ればセカンドはついてくるんだから、早く戻れ」
その声は最初に聞いた男の声だった。