第六七話……森の王4
「さあ、ここですね」
「……!?」
深い森を抜けた先には天を突くような巨大な樹木。荘厳で厚みのある樹皮で包まれたその幹は大人が二十人ほどの手をつないがないと囲みきれないほどに太く、その枝は多くの森の木の上にまで伸び、雄大に両翼を広げている。
「こ、こんなに……?」
王の間とでもいえるその空間はまるで今までの場所とは違う空間だった。森の外、ここまでの道中、そのどれとも違う。
「何なの、ここ?」
上村はその光景にただ言葉を失う。
「すごい、すごいね!」
「おっきい木だね!」
美奈と圭祐がはしゃぎながら王様のもとに駆け寄っていく。
「すごい所、絵本の中の世界みたい。日本じゃないみたい」
茜が両手を広げ、伸びをする。
日本じゃないみたいか……。確かに、神話に出てくるような……そう、世界樹とはこんな感じなのだろうか?
上村は溝口に案内され、王の近くで湧く水場で傷口を洗いながらぼんやりとそんな事を考えていた。水は冷たく傷にはしみたが、歩き疲れた熱を持った足には気持ちよかった。
「溝口君、聞きたい事があるんだけど」
「はい?」
上村は幻想的な世界で妖精のように遊ぶ三人に目を向けながら、静かに切り出した。
「君達の能力の事だけど、どういうことなのかしら?」
「……?」
溝口は質問の意図がわからないという風に首を傾げた。上村も自分の考えを整理するために間を置きながら、慎重に言葉を選ぶ。
「研究所にいる時と差があるような気がするんだけど……」
「ああ、その事ですか……」
今度は溝口が考えをめぐらしてから「僕はよくわからないのですが……」と付け加えてから語り始めた。
「能力の強さは個人差がすごくあるんです。大地とかは結構弱いんです。手から手への瞬間移動しかできないし、かと思えばコントロールもできない人もいたり……」
「弥生ちゃんとかね。そのために食堂にも来なかった。打消し合う存在の、神楽ちゃんが食事を運んでいたくらいだからね」
「圭祐君も茜ちゃんも、どちらかというと能力は強い方なんです。しかも、コントロールだってできるし」
「ええ……」
それは山崎も把握していた。実験体の中で能力の種類は別としても、その出力、潜在能力が高いのは圭祐や茜、美奈であった。
「僕もそうなんですけど、実験って研究者の方たちが進行を決めていましたよね? だから、能力を出し切るほどの事を要求されるってなかったんですよね」
「なるほど……」
「まあ、僕は聞かれなかったから言わなかっただけですけど、わざと出さない人もいたみたいです。宮沼は自分の本当の範囲を知られたくないように言ってましたし」
それには頷ける。脱走をしたがっていたり、露骨に研究所に反発している人間は自分の能力を完全に知られたくはないだろう。何せ、それを利用して脱走することになるのだから。
上村は溝口の話を聞きながら、山崎や深津、高橋の顔を思い浮かべていた。
能力者のDNAを使い、超能力を使う生物兵器作成……本当にそれだけなのかしら?
上村はいくつかの仮説を立てては自ら打ち消す。何かしっくりといかない。
圭祐や茜の能力を見た今なら、超能力を持つ生物兵器というものが如何に驚異的なのか、わからないでもない。
とはいえ、美奈の能力などは、兵器としてはあまり意味のない能力のような気もする。
なぜ、必要のない人間まで囲っておく必要があるのかしら?