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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第三章 白い巨人
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第六二話……合流1

「はあ、はあ……随分来たな……」


 佐藤は今しがた自分が辿って来た道を振り返ると、大きく息をついた。

 佐藤は関口の命令で配置についたが、電車外の待機組だった。そのおかげで関口突入と同時に逃亡する事に成功していた。

 あいつは今頃、手柄を立てて得意満面か?


「やれやれ……」


 こっちは命令違反で逃亡者だぜ……。


「我ながらバカな事をしたもんだ」


 ため息まじりに言ったものの、後悔の念は少しもない。

 どうしても気にかかる。会ってみたい。実験体と呼ばれる子供達に。そして、彼らが本当に研究所を壊滅させたのか確かめたかった。

 佐藤は周囲を見回し、誰もいないのを確認すると、よれよれになったタバコを取り出し口にくわえた。

 禁煙中だから火はつけない。ただくわえるだけ。それは考え事をする時の佐藤の儀式のようなものだった。

 日がすでに高く、温度が上がり始めている。一年を通して漂う厚い雲のおかげで、照りつけるような暑さがないのが今は救いだ。

 昔はこんな空ばかりで疑問に思ったが、今は慣れちまったな……。

 時折見せる青空を見られた時は運がいい。それが三十分と続く事はないからだ。

 佐藤は廃墟のガレキに腰かけ、半ば崩れかけた建物を見た。傾いた建物、割れた窓。もうずいぶんと人が入った形跡がない。

 この街の時間は止まっていた。


「ライトクリスマスからか……」


 もう二十年も前の事だ。世界をこんな状態にした謎の事件ライトクリスマス。

 当時、佐藤は十代だった。

 あの時のことは今でも鮮明に覚えている。

 夜がなくなるほどの光が降り立った。まるで白夜のように空は闇を忘れた。それが世界各地で立て続けにおきたのだ。

 日本にもそれは起きた。場所は東京だった。

 佐藤はその時、埼玉にいた。埼玉と群馬の境ほどに実家があった。そこからでもその突如現れた光の柱はしっかりと見えた。。

 その光により東京の大部分が消滅したと知るまでにそれほど時間はかからなかった。

 世界は混乱に陥った。色々な事を主張する人間が数えられないほど現れた。宗教家、革命家、思想家、終末論者と次元上昇を説く者、暴徒、自警団、集団自殺をあおる者、それに乗る者。どこからかデマや偽の情報が流れ、いつの間に武器が容易に手に入るようになっていた。一定の落ち着きを見せるまでに、数年はかかった。もちろん、今でも危険な地域はある。この国はいい方だ。

 佐藤はタバコをくわえながらため息をつく。


「……」


 落ち着いたように見えるのは、多くの人間が、すでにあきらめてしまったからかもしれない。ずっと曇った空ばかり見せられて、もう晴れる事はないと思えてくるる、そんな感覚だ。


「佐藤隊長!」


「……!」


 聞き覚えのある声に佐藤は顔を上げた。守衛団の戦闘服を着た集団が専用車両から降りてくる。奥山隊だ。


「佐藤隊長! どうしてここに?」


 声をかけてきた奥山は声を弾ませんがら、小走りに近づいた。


「お前らこそ、どうしてここに?」


「自分らは、実験体を追って。ところで関口隊に配属になったのでは?」


「ああ、抜けてきた」


「……!」


「実験体とやらに直接会いたくなってな。でも、あそこじゃ、何かと都合が悪い。……飛び出したものの、情報もなくて途方に暮れていた所さ。お前らが来てくれなかったら、やめたタバコに火をつける所だった」


「そうですか、間にあってよかった」


 佐藤に軽口に奥山も笑みを浮かべて返す。


「なら、自分らの命令と概ね重なりますね。目的はほとんど一緒と言っても過言ではない。ついで言えば、自分らは隊長が不在です」


「なるほど」


「お願いできますか?」


「……すまない」


 佐藤は奥山に頭を下げてから、一歩前で出ると見慣れた顔の隊員達を見回した。


「脱走した身分だが、貴君らの隊長を務めさせてもらおうと思う。かまわないか?」


「歓迎します! 佐藤隊長!」


 隊員から歓声が上がる。佐藤は何度か頷き、空が晴れたような気持ちで頭を掻いた。


「よし。状況は?」


「はい、この付近で浜島隊の通信が切れたとの事です。もしかしたら、実験体と遭遇したのではないかという事で、我々はここに向けられたのですが……」


「浜島か……」


 性格は気に食わなかったが、無能ではない。部下の練度も高かった。簡単にやられるとは思えないが、事故などにあったという事は、なおの事考えにくい。


「とにかく何か手がかりを探すしかないな。周辺を隈なく捜索するんだ。念のため二人以上で行動すること」


「了解!」


 佐藤の号令に隊員達は勢いよく散開した。


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