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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第三章 白い巨人
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第六一話……三人の勇者5

「勝ったんだな……!?」


 宮沼の声は力なく尻きれる。大地は一瞬錯覚かと思った。宮沼の背中から赤く濡れた白い腕が生えている。


「藤、も、と……?」


 宮沼の両腕がダラリと下がる。巨人が腕を抜くと彼の体は支えを失った人形のように崩れおちた。


「せ、誠一……!?」


 巨人は倒れた宮沼によってつくられた赤い道を気にすることもなく足を進めると、宮沼が守っていた藤本の体をその拳で叩いた。

 殴打。殴打。殴打。

 敵意をむき出しにしたようなその攻撃は藤本の意識が帰る場所を奪っていく。

 ふ、藤本は、やられたんだ……。


「う、うわあああっ!」


 大地は悲鳴を上げた。頭の中では走りだそうとしていたが、腰が抜けていた。焦る心とは裏腹に少しも足は動かない。

 逃げなきゃ、逃げなきゃダメだ……

 藤本が、宮沼が、死んだ。こんなにあっさり死んでしまうなんて……。一緒に研究所で過ごした仲間だった。溝口と四人でよく話をした。溝口になんて話したらいい? なんて説明したらいい?

 大地は泣きながらほふく前進のように這って足掻いて血の海を渡る。

 宮沼、藤本の顔が頭を過ぎる。振り向けば、宮沼が倒れていた。


「……ダメだ」


 あの藤本だって、戦ったのに……それで、ここで逃げるなんて……。

 大地は深呼吸をした。鉄と火薬の匂いにむせ返りながら、自分の足に力が戻るのを待った。白い巨人はまだ藤本の体を執拗に殴っている。

 何か、何かないのか!?

 何か、破壊力があるもの! 何か、この状態を逆転させられそうなもの!


「……」


 それはおそらく藤井が携帯していた物だ。主を失い、それは眠るようにそこに転がっていた。手榴弾だ。

 これだ!

 大地は力が戻った足で立ち上がると、手榴弾を手に取った。

 たぶん、ここにある武器の中で一番威力がある。それにこれなら使い方もわかる。


「ようは、ピンを抜いて投げればいいんだろ」


 問題はこれをどう使うかだった。

 ただ投げただけでは『リフレクション』の餌食になってしまう。


「ちっ、考えている暇はないか」


 白い巨人は藤本から大地へと目標を変えた。

 大地は今まで感じた事にない力がどこからかわいてくるような感覚を味わっていた。今ならできる。できるはず。今できないのなら、きっとこれから先もできない。


「藤本……ゴールでの告白は、お前のかわりに俺がしてやるよ」


 ふいに巨人に動きが止まる。大地も気がついた。自分を飲み込んでいるもう一つの気配がいた事を。

 威圧感で背中が痛い。


「もう一体いたのか……くそぉ、モテ期かよ」


 両方の相手はできない。

 せめて一体だけでも……!

 大地は新たに現れた巨人に笑ってみせた。巨人に目はない。見えているかはわからない。

 大地は鼻歌を歌い、新たに巨人に近づいた。まるで敵意などないかのように。散歩を日課にしている人が朝の散歩を楽しむように。

 巨人も大地の行為を警戒しながら、ただその様子を見守った。

 ピタリ。

 巨人の体に大地の手が触れた。

 刹那、大地は自分の歯で手榴弾のピンを抜いた。次の瞬間、大地の手から手榴弾が消失した。場所はもう片方の手。その手は巨人の体に触れられている。


「……!?」


「体内ならどうだ? 能力で何とかできるか!?」


 体内に異物を送り込まれた巨人は咆哮すると、その両腕で大地を抱きしめた。


「ちっ……」


 大地は宮沼と藤本がいるであろう場所に目を向けた。

 ……もっと、もっとだ、確実に、確実に、一体は何をやったって、誠一、藤本!

 大地の体が光る。その光に呼応して、車内に存在した数名分の手榴弾が一度に消失した。

 爆発。

 大地は四散する巨人の爆発に巻き込まれ、壁に叩き付けられ、宮沼達の眠る海へと漂った。赤い海に赤い雨が降る。虚ろな瞳の大地の顔を濡らしていった。


「……」


 彼は何かを呟いた。しかし、それを聞き取れた者はそこに存在しなかった。

 大地の意識は赤い海に溶けて行った。


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