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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第二章 暗躍
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第五八話……三人の勇者2

「あれがそうなのか? ずいぶん派手にやったものね……」


 畑中は輸送機の中、脱線した電車を見下ろしながら苦笑いする。


「目標を確認しました」


「OK、脱線車両周囲にフィールド発生リーダーを投下開始」


「投下開始します」


 輸送機から六本の金属棒が投下され、地面に凶音を立てて突き刺さる。


「クリエ投下」


「クリエ投下を開始します」


 輸送機から、八面体のカプセルが一つだけが滑り落ちた。



「君達の身柄は拘束させてもらう」


「嫌だね」


 銃口を構える関口に大地は即答した。

 周囲は囲まれ、すでに逃げ場は無い。

 関口はピストルを構え、彼女を真ん中に旧式のアサルトライフルを構える隊員が三名。大地、宮沼、藤本の後ろに三人。すでに射程内に入っている。


「なら、どうしようっていうの?」


 関口のサディスティックに歪む瞳に、宮沼は内心笑みを浮かべた。

 楽しんでやがるな……どう考えたってもう詰んでいるからな……。

 だからこそ、何かできるはずだ……。探せ、その何かを……。


(二人とも、僕に考えがある)


 意を決したように藤本が注意深く囁いた。


(どんな?)


(あいつらの誰かに憑依する)


 藤本の言葉に大地と宮本は思わず息を飲む。


 そんな事……。


(そんな事できるのか!? 相手はネズミじゃないんだぞ)


(同性なら、もしかしたら、たぶんだけど)


 藤本は今まで人間を相手に能力を使った事はない。研究所での実験でも、ネズミや鳥などの小動物ぐらいまでしか試した事はないのだ。


(たぶんって、お前)


(でも、他に思いつかないよ。憑依したら、銃を投げるから。その間、僕の体を頼む!)


 宮沼は無茶な事を言い出した藤本の顔を見た。人のいいで性格だが、優柔不断で気が弱い、いつもは自分の意見などほとんど口にしない藤本の覚悟に宮沼と大地は頷きあう。

 ちっ、やる気じゃねかよ。藤本……!

 宮沼はうれしくなって、口元が緩みそうになるのを必死に抑えながらその瞬間を待った。


「何をコソコソと話している!?」


「何でもないさ!」


 大地が叫んだ。

 その声に一瞬、関口達の注意が大地に向いた。その瞬間、藤本の体から意識と力が抜けた。宮沼は藤本の体が倒れる前に抱きかかえると、座席の陰に隠れるように逃げ込んだ。


「何!?」


 関口の裏に立っていた男の様子が変わる。

 藤本!

 大地は目を見張った。

 藤本の意識は男の体を乗っ取ると、アサルトライフルを構えなおす。標的は関口だ。

 ダンッ

 銃声が車内に響く。

 引き金を引こうとした瞬間、関口のすぐとなりにいた藤井の手によって男は射殺された。


「ぐあっ!?」


 刹那、打ち上げられた魚のように体を跳ねさせながら藤本の体に意識と力が戻る。

 ひどい頭痛と吐き気、眩暈の中で視界がブレている。藤本はまるで自分の頭を撃ち抜かれたような錯覚にとらわれた。

 藤本が憑依した男もまた藤井によって頭部を撃ち抜かれていた。


「ぐあぁぁ!」


 藤本自身の体に何も起きていなくとも、憑依していた意識の方はそうはいかなかった。


「『ライド』とか言ったか? 自分の意識を飛ばして相手に憑依させるんだったかな? 私達が何も知らないでいると思ったのか?」


「ちっ……」


 いくらわかっていたからって、いきなり憑依された人間を撃つかよ……!?

 今の作戦はよかった。藤本のライドは成功していた。普通なら、仲間が乗っ取られた事に対して動揺するはずだった。それがごくわずかな動揺であったとしても、それで充分に事足りるはずだった。

 頭の中で色々な事が駆け巡り、息苦しさと冷や汗が同時に宮沼を襲う。

 藤本の『ライド』が人間にも憑依できるのはわかった。うまくすれば、藤本の能力でこの状況を打開できたかもしれない。しかし、藤本のダメージは予想以上に大きい。


「ここまでか……」


 まだ充分に回復していない藤本の体を抱きながら宮沼は言葉をこぼれる。

 ミシリ……。


「……?」


 軋む。ひしゃげる。押しつぶされる。そんな音だ。空耳かとも思ったが、それが徐々にこちら近づいてくる。


「誠一!」


 大地が悲鳴にも似た叫び声で宮沼の名を呼んだ。


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