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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第二章 暗躍
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第五七話……三人の勇者1

 崩壊したビルの影から線路を見下ろす。

 そろそろ時間だ。


「これより実験体捕獲作戦を開始する。各自配置につけ!」


 関口の鋭い命令に、隊員たちはそれぞれ持ち場についた。

 ちっ……なんて作戦だ。

 佐藤は心の中で舌打ちをした。しかし、関口が言う以上、行かなければならない。


「……」


 実験体捕獲のために、ナイツに支援要請だなんて……。

 関口は実験体である子供達が研究所を壊滅させた事を信じているようだった。

 そんな事、本当にできるものか? 相手は子供だというのに。


「……」


 佐藤はハッとして散開した部隊を見た。

 動きようによっては……。

 佐藤は息を殺すように思いを巡らせ始めていた。



「なあ、柏原、変だと思わないか?」


「うん?」


 朝日が差し込み始める車内で、その光に顔をしかめる平田直也は近くに座っていた柏原に耳打ちする。


「もう駅をいくつか過ぎたのに、誰も乗ってこない」


「朝が早いからじゃない?」


 柏原は相変わらず穏やかな笑顔で直也に答える。

 確かに朝早いという事や人の少ない地区であるという事はある。しかし、駅に停車して上りホームにも下りホームにも一人も人影をみないという事があるだろうか。

 いつもこんなものなのか?

 直也は電車自体何年も乗っていなかった。

 直也の住んでいた所は、昼間でも一時間に電車が一本しかないのような場所だった。

 研究所に連れてこられた時には車だったのだが、その途中で見た電車には乗客が多く乗っていた。彼はその事に驚いたほどだった。

 しかし、柏原にそう言われれば、そうなのかと納得するしかない。


「おい、あれなんだ!?」


 突然大地が叫んだ。

 その声に全員の視線が大地の方に向く。大地の指さす方向に、全員の顔が向いた。


「お、おいおい……」


「あれは、戦闘機……だな」


 聖の言葉に全員が硬直する。

 それは間違いなく旧式の小型戦闘機だった。しかし、その操縦はどこかおかしい。

 近い。近すぎる。

 このまま行ったら……。


「藤本! あのパイロットに憑依できないのか!?」


 宮沼が叫んだ。


「だ、ダメだ、あれ、誰も乗っていないよ!」


 旧式の遠隔操作の無人戦闘機は、走行する電車を目がけ、墜落するような角度でさらに加速した。


「逃げろ!」


「どこへ!?」


 聖の言葉に夏美が叫ぶ。

 走行中の電車の中で逃げ場所などあるはずがない。


「他の車両に移動しろ、できるだけ遠くへ行くんだ」


 聖の咄嗟の判断にそろぞれその散った。

 できるだけ遠く、遠くの車両。

 平田達は進行方向へ、聖は夏美の手を引き、進行方向とは反対の方へ走り出した。

 轟音が近づく。音が背中を押してくる。

 瞬間、爆音と共に激しい横揺れの衝撃が電車を襲う。

 聖は夏美の手を引き寄せ、彼女の体を抱きしめると『バリア』を展開して身を固くした。

 衝撃は電車を中央部分から脱線させ、破壊的に電車を停車させていた。

 上空から見れば、ちょうど「く」の字をひしゃげさせたように、電車は走るのをやめさせられていた。


「……つぅ」


 宮沼は何とか立ち上がる。一瞬視界がおかしくなったのかと思ったが、そうではなかった。車両が傾いていたのだ。


「……あの戦闘機、事故じゃないよな?」


「ああ、事故じゃないだろ? 完全に狙っていたよ」


 宮沼の誰ともなくこぼした言葉に大地が答え、藤本はため息をついた。


「僕達を捕まえるために、ここまでする?」


 宮沼はそこに残ったメンバーの状態を確認した。聖と夏美の姿は見えない。座っていた位置の問題だ。反対方向に走った方が、都合がよかったのは明らかだ。それに何より、聖には『バリア』がある。こちらよりも状況としてマシなのではないかと考えられた。

 平田、柏原、星河は共に同じ方向に逃げたのだが、やはり位置関係か、もっと先まで逃げることができたようだった。


「俺達がケガしてないんだ、三人に関しては大丈夫だろう」


 宮沼は汗をぬぐいながら、傾いた車両の中で一息つきたい気分になった。

 能力で生きていることだけはわかるがケガをしているかどうかまではわからない。

 宮沼達三人がある意味運がよかったのは、たどり着いた車両で座席が四人一組で向かい合う形のものが設置されていたためだった。その陰に隠れたおかげで衝撃が緩和された。

 車内は窓ガラスもほとんどなくなり、ずいぶん風通しがよくなってしまっている。


「さてと……」


 こんな状態でぼやぼやしているわけにはいかない。あの戦闘機が爆発でもそれこそ目も当てられない。


「外で合流できるかな?」


「どちらにしても早くここを出る必要が……大地待て!」


 ドア横に添えなえつけられている緊急用の開閉レバーで扉を開けようとしている大地に、宮沼は声を上げた。

 その声に思わず手を離す。


「囲まれている、そこを開けたら撃たれるぜ」


 宮沼の『フィーリング』が電車周囲の包囲網を察知する。彼は立体映像のレーダーのように人の姿を感知している。

 色々と対応が早いじゃないか……。

 結局、電車でもそんなに移動距離を稼げてはいなかった。

 十五人はいるな……。くそ、距離が限界だ。

 おそらく、聖や平田達の方には気が付いていないだろう。こちらに引きつければ、聖や平田達を逃がすことができる。


「どうする?」


 大地が宮沼と藤本を見る。


「戦う……?」


 藤本の声が震える。


「戦ってどうにかなるとは思えない……けど、時間稼ぎは必要だろう」


「時間稼ぎ?」


「ああ、不利だとわかっていても仲間のために立ち向かう。いい役だろ? 俺達」


 宮沼は強がって無理やり笑ってみせた。


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