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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第二章 暗躍
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第五六話……生存者2

「予想を遥かに上回る戦力を持つ事が判明しました。作戦終了後も一切の証拠を残す事無く消滅させる事ができます」


 畑中はドーム状に囲われた部屋の中央に立つと、巨大な十二枚のモニターの前で今回行われた実戦テストの結果を報告した。

 報告書から目を上げ、モニターに目を向けると、そこに映る画像がわずかに揺れる。

 モニターには何も映っていないように見えるが、その先には畑中でもその顔を見た事すらないような者達がいる。


「なるほど、よくわかった。それでは、現場を見てきた君の個人的な見解を聞こう」


 左から四番目に位置するモニターの上で赤いランプが点灯すると、機械で変えられた音声が室内に響く。

 声質からしても、男なのか女なのか判断がつかない。口調からすれば、男かもしれないが。と畑中は思った。


「戦力としては充分。身体的能力、彼らの特性ともいえる超能力、そして制御統率、どれも申し分ないように思えます。しかし……」


「しかし……?」


「できれば、実験体……つまり、オリジナルとどのように戦うのか、興味があります。それもできるだけ少ない数での戦闘です」


「許可しよう」


「それでは……」


「実験体との実戦テストを命じる」


「はっ」


 赤いランプは一番、七番と次々に発言するモニターの上で点灯する。そのたびに畑中はそちらに視線を向けて対応しなければならなかった。


「研究所の守衛団第五部隊を君は知っているかね?」


「はい、今回の実験体脱走の件で動いていると記憶していますが」


「そうだ。その彼らから協力を要請されている」


「実験体捕獲のために?」


「そうです」


 次々と移りかわるランプは、まるで一人の人間が話しているかのようにスムーズにつながれていく。


「あなたはそこに参戦すればいい」


「しかし、それでは第五部隊は……」


「忘れてはいけないよ。研究所はすでに無くなった。そこにあった守衛団など、もはや野良犬も同然」


「野良犬は然るべき処分が必要だろう」


 その言葉を境にランプは点灯をやめた。


「……」


 不意に六番モニターのランプが点灯すると、


「それでは、よいデータを期待している」


 その言葉がまるで合図でもあったかのように、十二のモニターすべての電源が一度に落とされた。部屋には静寂が舞い降りる。

 実験体だけでなく、あの研究所に関するものすべてが実験道具だったって事か……。

 畑中は薄暗い照明の書類をまとめると、特別管理室「ナイツ」をあとにした。



「……」


 深津は一人外を眺めながら、流れていく雲の行き先を目で追っていた。

 ここは畑中によって連れてきてもらった彼女の部屋だった。新たな作戦のために一時的に移り住む事になった仮屋であったが、指揮をとる畑中に割り当てられた部屋は広かった。 

 日本であることは間違いないが、地理的にここが一体どこなのか、深津には見当もつかない。

 畑名に保護されたあと、簡単な検査を受け、畑中が彼女の身元を引き受けたのだった。

 畑中は本部にある自室を薦めてくれたが、深津の方から無理を言って彼女についてきた。

 夜が明け、身の安全が確保されたと言っても、気分が晴れるわけではない。

 心も体も疲弊していた。救出後は畑中が一緒に寝てくれたおかげで眠ることができたが、一人になると時折震えだす体を落ち着かせるだけで精一杯だった。

 部屋にはこれと言ったものは何もない

 ベッド、椅子、デスク、バスルームにはシャワーだけが備えつけられている。

 小さな冷蔵庫の中にはビールが数本と水が入っていた。

 飾り気のない部屋で畑中の持ち物と言えば、

 わずかな着替えとノートパソコンぐらいだ。

 ノートパソコンに関しては、畑中が「気分転換になるなら使うといい」と言って置いていったものだが今の所、触れてもいない。


「……少しやってみようかな……」


 何かしている方が、気が紛れていいのかもしれない。深津は記憶の中でよみがえってくる不気味な白い影を追いやるようにわざと声に出して言った。


「大丈夫、ここにいれば大丈夫……」


 深津は深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 極力冷静になって考えれば、すでに夜が明けた今なら、あの事がニュースになっているかもしれない。少しでも何かがわかれば、また気持ちが変わる可能性もある。

 もしかしたら、私が見たものは間違いだったかもしれないし……。

 深津は脳裏に浮かぶ黒白の巨人と山崎の死をどこか非現実のものとしたくて、それを裏付けるための確認作業をしようとしていた。

 あんな巨人など現実世界にいるはずがない。

 山崎先輩の死体を見たわけじゃない。

 深津はそれこそが現実のものであるかのように自分自身に言い聞かせながらノートパソコンの電源を入れた。


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