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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第二章 暗躍
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第五四話……日倉の戦い1

「おい……あれを見ろよ」


 一人の隊員がそれを発見した。

 瓦礫の上に腰かけ、足をブラブラさせる女の子。

 こんな所に女の子。

 周囲には廃墟、元高校だった場所は、今や人から忘れ去られ、人の立ち入る事のないゴーストタウンと化していた。

 こんな所に女の子がいるなんて……。

 脱走者でなければ、物の怪の類に違いない。

 そう男達は思った。

 男達は実験体の捕獲を命令され、映像で姿を確認していたが実物をこうして遠目にでも見るのは初めての事だった。

 あんな子が……。

 男達が近づいて行っても彼女は逃げようとしない。男達は一種異様な気持ちになりながら、ゆっくりと彼女に接近する。

 近づけば、彼女の姿がより一層、その姿を見る事ができる。

 年齢は十五歳くらいだろうか。

 ある隊員は実家いる自分の妹を思い出した。

 ある隊員はまるで手の届かないような妖艶な年上の女を思い起こしていた。

 小柄で愛らしく、子供っぽいようでいて、どことなく艶美にたたずむ。長い黒髪、不思議な色合いをした黒い瞳が男達に向けながら、花唇に微笑みを浮かべている。


「き、君は……脱走した実験体……だな?」


「はいぃ、皆さん、帰ってもらってもいいですかぁ?」


 警戒しながら声をかけた男達は日倉のしゃべり方に面を食らった。今までの雰囲気とあまりにもギャップがある。

 男達はお互い顔を見合わせた。その中にいた幾人かは思わず吹き出している。


「あのぉ、どうですかぁ?」


「ごめんな嬢ちゃん、それはできないんだ。なあ?」


 一人の男が茶化すように日倉の頭にポンと手を置きながら他の隊員に同意を求めるように振り向いた。


「そうですかぁ。……残念ね」


「!?」


 日倉の頭に手を置いた男は突然聞きなれない音と違和感を覚えた。


「汚い手で触らないでくれる?」


 男の右手の指を一本折った。


「なっ!?」


 いくら大人の男であっても、油断していた所に指一本だけを折りに来られたのではたまらない。男は咄嗟に手を引っ込めようとしたが、日倉は折れた指を離さず、そのまま自分の方に引き寄せる。男は痛みに逆らえず、そのまま地面に引き倒されなければならなかった。


「お、おい!」


 日倉は引き倒した男から銃を取り上げると、先ほどまで笑っていた男達に向けた。

 日倉一人、足元に倒れる男を含め相手は七人。拳銃一つ奪われた所で男達に分があることには変わりがない。

 その上、もう男達の意識は変わっている。ここら先に油断はない。プロが七人だ。

 しかし、彼女は少しも怯む事なく、艶美に微笑する。


「あんた達には用はない。とっととここから去りな」


 その口調は先ほどまでの穏やかな口調と違い、まるで別人のように鋭く冷たい。

 男達はまるで別人がそこにいるような錯覚を受けた。


「その女を捕獲しろ!」


 六人の中の一人が声を上げた。

 その声にはじき出されるように男達が彼女に襲いかかる。

 日倉はその男達の手をするりと潜り抜け、命令をだした男の前まですんなりと歩みを進め、その隊長らしき男に銃を構えた。


「今、どうやって……!?」


「能力か!?」


 日倉は訓練された襲い掛かる五人の中を、少しも触れるさす事なく通り過ぎた。

 その光景に、男達には自分達の算段が誤っていた事を痛感した。やはり、ただの女の子ではない。もはや物の怪の類と言っても相違ない。


「今なら見逃してあげるけど?」


「……」


 その時、倒れていた男が動いた。


「死んでなきゃいいんだよな」


「死んでなきゃいいんだよな! はっ!?」


 彼女のセリフに男はハッとした。 

 左手で銃を撃とうとした瞬間、日倉は隊長の背後に身をひるがえしながら、男の腿に向けて引き金を引いた。男が日倉の腿を狙っていたのを返すかのように。


「ぐあっ!」


「足を狙うなんてやらしい。そんなに魅力的だった?」


 そう言って彼女は自分のスカートを少しつまみ上げ白い足を見せる。

 男は苦悶の顔で身を固めている。


「く、今の不意打ちも読まれたのか?」


 隊長は背中に銃を突きつけられ、ほぞをかんだ。

 こんな事が起きるなんて、こんな子供相手に、しかも丸腰だった女の子相手に……。


「貴様、何者だ……?」


「それって……」


 彼女は少しも迷うことなく隊長の荷物から一丁の銃を取り出した。


「くっ!? なぜ……」


 なぜわかる!?

 それは実験体を捕獲するために支給された麻酔銃だった。撃てば容赦のない睡魔が襲う。新式の銃と弾は、隊長クラスにしか持たされていない。


「知る必要ないわよね?」


「くそっ」


 彼女は麻酔銃を隊長の背中に打ち込んだ。それを皮切りに次々に隊員たちを眠らせ、最後に足を撃った男の前に立った。


「警告しておくわ。目が覚めたら、ここからすぐに逃げなさい。死にたくなければね」


「な、なんだと?」


 フツと彼女の笑みに優しげが浮かぶ。 


「応急処置はしておいてあげる。おやすみなさい」


 そう言って、彼女は最後の一人にも引き金を引いたのだった。 


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