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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第一章 集められた子供
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第四四話……脱走計画

 八月二十一日。

 それは静かに動き出そうとしていた。


「いいわね、予定通り私達から先に行ってから、風見君と千堂君は囮になる。遅れて他のみんなはそれぞれ研究所敷地内から脱出する」


 目的地は第六研究所。直線距離でも結構な距離がある。整備されていない道や起伏の地形など、道は険しい。


「いい、さっき渡した地図に書かれたマーカーが守衛団の駐留場所になっているわ」


 上村がその権限で調達した情報だ。

 もちろん、脱出後各隊に通達が行き、各隊が移動する可能性がある。それでも、あるとないとでは大違いだ。

 全員を集め、説明する上村の後ろにはすでに三台の車が用意されている。

 一台は流線型の赤い車。車の雑誌などでも紹介される人気のスポーツタイプだ。そこにいた星河や梶、宮沼などは興味津々にその車、上村の愛車を観察している。

 その隣には旧式のジープのような車。守衛団が最近まで使用していたものだ。守衛団のカラーである青と白のラインが引かれている。

 埼玉は平地が多いといっても、中央都市部から離れたここら辺では、この車の方が走りやすいのではないかと千堂には思えた。

 今は舗装された道路の方が少ないのだ。


「よし、そろそろね。私達が出て十分後。風見君と千堂君、わかったわね」


 十分経てば、上村の車は研究所のゲートまではいく。空と千堂の動きはそれからだ。

 空と千堂は上村に頷いて見せると、彼女は同行者の顔を見た。


「溝口君、茜ちゃん、圭祐君、美奈ちゃん、行くわよ」


 呼ばれた四人は上村の車の中に隠れるように乗り込む。


「じゃあね、ユキちゃん」


「にゃあ」


 美奈は小さな手を振ってユキに別れを告げた。ユキの寂しげな鳴き声は、美奈には一体どのように聞こえているのか。空は少しだけ知りたい気分になった。


「それじゃあ、向うで会いましょう」


 上村は車内からウインクすると、エンジンをかけ、アクセルを踏み込んだ。

 流線型の赤い車は、夜空をかける赤い流星のように消えて言った。


「さてと……一先ず南ね」


 上村達は研究所南側のゲートを目指す。主に資材や食料などの搬入口として使われる事の多いゲートで、ゲートとしては大きい。その上、この時間であれば監視している人間も少ない。


「お疲れ様、ちょっと、いいかしら」


「上村さんじゃないですか、どうしたんですか、こんな時間に……」


 上村はゲートに車を止めると、中にいた警備員にいつもの調子で声をかけた。気さくな感じの若い者だった。


「眠れないからドライブでも行こうと思ってね。一緒に行く?」


「い、いえ、自分は任務中ですから」


 上村が艶っぽく含みを持たせると、彼は顔を赤らめながら恐縮して手を振り、慌ててゲートを開ける。


「ふふ、真面目ね。そういえば、これちょっと見てくれる?」


「えっ? 何ですか?」


 顔を出した男に、上村は田谷の使っていたあのスプレーを吹きかけた。彼は一瞬、ハッとしたが、重くなる瞼をどうすることもできず、その場にぐったりと倒れ、眠りについた。


「よく効くじゃない。あいつ、こんなものどこで手に入れたんだか」


 上村は倒れた男を監視カメラから死角になる所に運ぶ。これで、すぐには見つからない。

 全員でここを通れるのなら、それが一番よかったのであるが、何せ人数が人数だ。もし、見つかり追っ手に追われては身動きがとれなくなってしまう。

 予定では、風見と千堂が東ゲートと西ゲートを突破し、陽動をすることになっている。その間に、このゲートはその他のメンバーが通過する算段だ。


「うまく行きましたか?」


 車内で隠れていた溝口が顔を出す。


「ええ、うまくいったわ。後ろは狭いでしょう? 溝口君は助手席に乗って」


 四人で狭そうにしていた後部座席から溝口は助手席に移る。

 上村は何事もなかったかのように車を発進させた。


「上村さん、僕らこれからどうするんですか?」


「一先ず、森の方を通るわ」


 上村の言う森とは研究所から南西部に存在する。あの事件から地球の環境は大きく変動したが、単純な気候だけなく生態系や植物にもその変化が見られるようになっていた。

 日照時間が天候により減少しているにも関わらず、植物の異常発育が各地でみられるようになっていた。これから向かおうとしている森もまた、そんな異常発育によって急速に形成された森林地帯だった。


「溝口君が彫刻で使っていた木は、その森で採られたものがほとんどよ」


「ああ、なるほど……そこですか」


 彼は上村の言葉に、今まで触れてきた木のイメージを思い出しながら、木から読み取っていた森の情報を思い出していた。


「そっちは手薄のはずだしね」


「ねえねぇ、鳥さんいるかなぁ」


「夜だもん、寝てるよ。きっと」


 美奈が顔を出して呑気な事を言っていると、茜がそれに答えた。

 二人のやりとりに微笑みながら、上村は時計を見た。すでに出発してから、十分を経過していた。

 脱出計画はこうして始まったのだった。

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