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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第一章 集められた子供
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第四二話……仲間・風見と千堂

「というわけなんだ。わかったかいユキ、サヤ」


「にゃあ」


「うーん、わかった、と思う」


 しっかりとした返事をするユキに対して、サヤは自信さなげに頷いた。正直もう一度聞いてもしっかりと理解できるかどうか怪しい。

 とはいえ、姉が「わかった」と言ったのにつられて思わず頷いてしまった。

 あ、あとでお姉ちゃんに聞けば大丈夫だよね……。

 サヤはそわそわしながら白い姉をチラチラと見る。姉は少し気難しい所もあるが、自分と違い賢く頼りになる自慢の姉だ。

 サヤは姉に聞くことを決めると今度は「姉に何を聞くのか」を忘れないように口の中で反芻する。


「まあ、お前らは空と一緒に行動するんやから、空についていっておとなしくしていればいいんや」


「そっか、空のそばにいればいいんだね!」


「まあ、そういう事かな」


 千堂の言葉にサヤは安心したように表情を明るくさせた。

 空はあの話し合いの事を思い出していた。

 上村が車を用意するという。一台には、上村と溝口、茜、圭祐、美奈が乗る。上村の運転で空たちよりも早くに出発する。彼女ならば目をつけられたとしても、うまく切り抜けられる可能性が高い。 ある意味もっとも目的地に到達する確率の高いグループである。


「俺達は、俺とサヤ、ユキ、日倉、冴木だからな。サヤとユキが怖がらなければいいけど」


「うん、まあ、大丈夫やろ。それよりも、そちらは車やろ? 大丈夫なんか?」


「……そうだな。サヤもユキも車は乗った事はある?」


「にゃあ」


「ないよ」


 サヤとユキは屈託なくニコニコと笑う。

 彼女達はこの研究所で生まれ、この研究所で育ってきたのだから、当然と言えば当然の答えである。彼女達からすれば、この研究所の外に出る、という事さえ初めてなのだ。

 千堂は苦笑いする。


「酔わんといいけどな。車に」


「酔い止めとか、用意してもらった方がいいかな?」


 千堂は少し考えながら遠足に行く前の小学生のようにはしゃいでいるサヤとユキを見る。


「そやな、その方がいいかもしれんな。冴木は、ケガは治せるけど、病気の類はダメやし、たぶん車酔いは治らんと思うから」


「そうなのか?」


「ああ、前に美奈が言っていたから、そうなんやろな」


『ヒーリング』というからには何でも治せるのかと思っていた空は肩透かしを食らったような気分になった。


「しかし、能力は覚醒せんかったな」


「ああ、せっかく監視してたのにな」


 千堂はフッと笑みを浮かべる。


「気づいてたんか」


「……と言っても計画の話を聞いてからだけど」


 脱出計画をしていた彼らにしてみれば、空の能力がどんなもので、脱出にどれほど利用できるのか、脱出に反対するか賛成するか、敵になるか味方になるか、が重要なのだ。それを見極めるために千堂は近づいてきたのである。


「お前なら賛成すると思ってな。あの会議にも来てもらったってわけや」


「なるほど」


「……あんまり怒ってないんやな」


「『カラー』か。そうだな、千堂には色々と説明してもらったしな」


「能力の存在を理解し、それ自体が感覚的に違和感のないものになっていった方が能力の覚醒は早くなるってな」


「なるほど」


 千堂と空の会話はそこで途切れた。

 しばらく沈黙が続き、ユキとサヤは二人の間で視線を行ったり来たりさせた。


「……うまくいくかな?」


「わからんなぁ。でもうまくやらないといかんやろな」


 先に沈黙を破ったのは空だった。空の言葉に千堂はいつもの調子で答えた。

 すると、空も千堂に調子に合わせ「そっか、向こうで合流できるといいな」と言った。


「ああ、もちろん……そん時は、もっと俺の事、信用していいからな」


「ああ、もちろんだ」


 空と千堂はそれからまたいつものように何でもない話をしはじめたので、サヤもユキも安心していつの間にか寝てしまった。彼女たちが寝てしまったので千堂は声をひそめ、空におやすみを言って部屋を出ていった。

「……」


 ユキはベッドの下で丸くなり、サヤは空のベッドの隅で寝ている。

 明かりを消し、ベッドに横になって天井を見ていた。

 ここに来て、一か月が経とうとしている。

 空は、能力も覚醒していない自分を仲間として引き入れてくれた事には感謝していた。


「……」


 暗闇に奪われた視界が、徐々に順応して視界がひらけていく。

 確かに、この研究所の居心地はよくない。食事や気温、温度管理がされた危険の少ない場所ではあるが、扱いはやはり人間ではない。表面上は取り繕わられていても、本質的にはそういったものがあることは拭えない。

 それに、出ようとしなければ、おそらく死ぬまでここを出ることはないだろう。

 いつかはやらなければいけない、とは思ってはいた。


「……うまくいったのかな」


 妹は無事に治療を終えたのだろうか。

 妹の治療費のため。それが、上村との交換条件だった。


「……」


 ふと、空は横でよだれを垂らし、にやけながら眠るサヤの顔があった。


「……」


 うまく行ったら、サヤとユキを紹介してやろう。

 空は寝ているサヤの頭を撫でてやった。すると、サヤはしっぽを嬉しそうに揺らすのだった。


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