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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第一章 集められた子供
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第四一話……仲間・宮沼と溝口

「えっと、彫刻刀は……」


「ずいぶん念入りだな」


「うん、一応ね」


 目の不自由な溝口が手探りで彫刻刀を確認しながらしまっている。手慣れたもので、少しも危なげな所がない。

 溝口の私物と言えば、この使い込まれた彫刻刀のみだ。逆に言えば、それだけの愛着がある。今回の計画で邪魔になっても持っていきたい物だ。

 そんな溝口の姿を宮沼は椅子に腰かけ、くつろぎながら見守っていた。

 溝口とはここに同時期に入った仲間だ。同じ年であった事もあって、行動を共にする事が多かった。


「……うまく行くかな?」


 少し不安げな表情で溝口が呟く。すると、宮沼はつとめて明るく言った。


「何とかなるさ。だいたい、彼女も作らない内になんかあってたまるかよ」


 宮沼は椅子の上でのけ反り、天井を見た。溝口はいつもの彼の調子にいつものように笑みを浮かべる。


「誠一らしいね」


「ああ、しかし、なんで、ここにはいい女がいないのか。いいのにはすでに誰かいるし」


 彼はわざとらしく天を仰いだ。


「そう、フリーな人もいるでしょ? 確か、沖田さんとか、冴木さんとか? 日倉さんも歳は近いし……」


「双子は……って言うか、日倉とか冴木とかマジないわ」


 すでにわかりきっていた反応に、二人は笑いあった。

 二人はしばし女子の品評に花を咲かせるのだった。目の見えない溝口にとっては宮沼や藤本、岡島などのいつものメンバーが与えてくれる情報だけで頭の中にモンタージュを作るしかない。彼らの観察眼は貴重な情報源だ。


「神楽さんとかも可愛いんでしょ?」


「ああ、神谷とはタイプは違うけど、神楽もいいセンいってると思う」


 日倉も沖田もそれぞれに魅力はあると思う。正直、冴木など好みによっては神谷よりも人気があるかもしれない。しかし、それはあくまで見た目だけの話。あの独特な雰囲気はいただけない。


「まあ、神楽は普通に可愛いけどさ、どっちかって言うと蓮見を応援したい気分なんだ」


「ふふ、同感だね」


 蓮見が神楽の事を好きだという事は、ほとんどのメンバーが知っている。気が付いていないのは、心を読む能力を持つ神楽なのだから皮肉なものだ。

 笑いあっていた声がだんだん小さくなり、「みんなとは、また会えるよね……?」と、溝口が呟くように言葉をこぼした。


「……もちろん会えるさ。あの上村が保証するって言うんだから、何とかなるだろう」


 もっとも、保証はしたが確証はどこにもないけどな……。宮沼のその思いは、そのまま心の内にしまい込まれた。

 それに……

 無事に脱出できるかどうかだけじゃない。そのあとどうするのか、という事だってある。 

 計画後、それから先はどうなるのか、不安でないと言えばウソになる。

 何度も個人的に脱出計画を企て、実行してきた宮沼にとっても、今回の計画はまるで意味が異なる。

 いくら謎の生物兵器があるとはいえ、上村までいて、全員がやられてしまう事など考えにくい。誰かが捕まることはあっても、誰かはきっと逃げることに成功するだろう。

 その誰かになれるかどうかが問題ではあるが。


「一先ずお前は、上村と一緒だろ? 安全度は高いはずだよ」


 計画では、グループに分けて脱出を試みる。溝口は目が不自由であるという事で、美奈、茜、圭祐などの子供らと上村の先導で脱出する事になっている。


「僕はみんなの心配をしてるんだよ」


「うん、まあな……」


「あれ、何の話してるの?」


 大地がひょいと顔を出す。その後ろで藤本も姿を現した。今回はネズミではなく、本体がやってきている。入ってきた時期は違うが、同じ歳の四人だ。


「ああ、脱出が成功したら、どんな打ち上げをやるか、って相談さ」


 急に宮沼が明るく言った。

 溝口もそれを否定しない。


「へぇ、楽しそうな事話してるじゃん」


「一先ず、成功したら、誰かに告白するっていうのはどう?」


 藤本の言葉に今度は溝口が乗る。


「マジか」


「誰が、誰に?」


 宮沼と大地の言葉に溝口は少し考えてから、藤本の方に微笑みかける「一先ず、蓮見に告白させて……あとは、俊が沖田あたりにどう?」と指名した。


「ええ、俺? 姉に? それとも妹?」


「どっちでもいいよ。っていうか、やる気なんかい」


 宮沼のツッコミに四人は笑い。もう計画の話には触れなかった。

 溝口は仲間たちの声を聞きながら、その声を心に刻みつけていた。


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