第三八話……秘密の会合2
「上村……?」
「どういうこと? いきなり上村さんが?」
蓮見はそう言ってからハッとして日倉を見た。
彼女が言っていたのは上村の事だったのか。
日倉は相変わらずニコニコと笑っているだけだが、すでにこの場面を見ていたのかもしれない。
上村は一端全員を見回すとその視線を受けながら、悠然とその輪に入った。
「いきなり、あんたが登場だなんて、ますますどういうことだ? しかも、その口ぶり、まるで味方みたいじゃないか」
「味方みたい、ではないわ。味方よ」
一馬の挑発的なものいいに、上村は肩をすくめてみせる。
「あなた達がこの研究所にいる理由……」
「能力の研究だっていうんだろ?」
平田の言葉は何度も上村が言ってきた言葉だった。ここにいる全員が聞いたことのあるものだ。それも何度も。
単なるお話会だとしたら上村は歓迎するメンバーは多い。しかしこの会議はそういう類のものではない。美奈や茜、圭祐など子供達や、神楽、蓮見達にとってはいいお姉さん的存在であり、梶や星河などは警戒心をあらわにしている。どちらにしろ、ここにいる全員が彼女に一目置いている事には違いない。
「まずはその事を謝罪しなければならないわ。ごめんなさい」
「謝罪?」
「どうして?」
圭祐と美奈が首を傾げる。
「何か悪いことしたの?」
二人に茜も続く。上村は「ええ」と三人に微笑んだ。
「一体、何があったんですか?」
溝口の問いに、上村は真剣な面持ちでこう切り出した。
「あなた達のここにいる理由。それは、能力の解明と研究、そして多くの人間達に能力を与え、物質的ではなく、精神的な進化を促すためだと言ってきたわ」
「なんだか、難しくてわかんないよ」
「しっ、今は黙って」
圭祐に注意しながら二つ年上の茜は神妙な顔つきで耳を傾ける。実際のところ、茜も上村の話は難しすぎたが、みんなの表情を見ながらそう判断した。
「でも、実際には、あなた達の能力。DNAを使って生物兵器が造られていた」
「生物兵器?」
それぞれが顔を見合わせた。その顔はいまいちピンと来ていない。
「私達は兵器開発のために、実験を行っていたことになるわ」
「ちょっと、待ってくれや。どんな風に俺達の能力を利用して兵器を作ったかは知らないが、今の時代、そんなものを作ってどないする気なんや?」
世界は壊滅的打撃を受けた。
今の世界では、その影響からか大規模な紛争や戦争の類はほとんど起きていない。もちろん戦う理由がなくなったのではない。
世界には変わらず、対立や差別、格差が存在している。
「どうしてそんなものを造ったのか、それは今は問題ではないわ。問題は、その実戦テストをこの研究所で行うという事よ」
「……!?」
「それって?」
神谷に上村を頷いてみせる。
「目的は君達、ということよ」
「な、なんで!?」
「いくらなんでも無茶苦茶だろ、いきなりそんなことを言われても!」
「俺達を利用して造った兵器で、俺達が殺されるっていうのか!?」
「能力は能力で打ち消しあう。つまり、君達がいては、君達をベースに作られた兵器は能力をつかえなくなってしまう」
「すっかり俺達は邪魔ものになった、ってことか」
「ええ、そんな所ね。私が得た情報によると、そいつの名前はクリエ。残念なことにどんな姿形をしているのかはわからないわ」
聖の言葉に答えつつ、上村は言葉を続けた。
「君達ならクリエを破壊することも可能なはずよ。彼らはクリエを完全なものにするために、あなた達を殺しにくる」
「なら、こっちから迎え撃ってしまえばいいやないか?」
「ええ。でも、それだけではダメ。実は先週この研究所から持ち出されたコンテナの中に、そのクリエの大元になるものがあるようなの」
「……」
全員が静まりかえった。