第二話……風見空
「まっさかぁ!」
千堂は笑いながら椅子の上で上手にバランスをとりながら反り返る。
「おいおい」
「まあ、今の話はお偉い博士さんの言葉を言っただけさ」
「……」
「お前もすぐに会うことになるとは思うけどね、博士って言っても結構若い感じの美人さんやで、こんな感じで」
千堂は自分の体の前で両手で女性的な曲線を描いてみせた。
「……」
「ま、まあ、そんな感じかな」
すると、突然どこかで鐘が鳴った。
まるで学校で鳴るような鐘の音だ。
「お、もう、こんな時間か」
「何かあるのか?」
「ああ、夕食の合図だ。これを逃すと夕食にありつけなくなる、さあ、いこか」
千堂は「やれやれ」と言った感じで椅子から立ち上がるとアゴで入り口を指した。
確かに今日一日何も食べていない。このままここで意地を張る理由もない。
「新入り」
「風見空だ」
千堂はニヤっと笑うと
「そうか、空か。なら、先輩が教えたる、よう聞いとけ」
「うん?」
「飯はうまくないで」
「……」
千堂は白い歯を見せて笑うと、彼の肩に腕をかけ笑った。
「まあ、なかよくやろうや、空ちゃん」
※
「ついに揃ったのか」
「しかし最後の実験体はまだ覚醒していないようだが」
「問題ない」
「そうか」
「失敗は許されないぞ」
「問題ない」
「……では、私は?」
「まずは第六へ」
「……はい」
※
空は夕食を終え、部屋に戻ってくるなりベッドに倒れ込んだ。
千堂の言ったとおり、夕食はたいしたものは出てこなかった。
しかし、夕食がある程度に出てくるだけでもありがたいというものだ。
外では食事のためにも一苦労だった。
あの事件後、この国の経済は停滞している。それは今も続き、瓦礫なども手付かずの所が多く存在している。
一部の大企業と一部の公務員意外にはまともな仕事もないような状態だ。
人間の減少、都市部への集中。経済格差は深刻化していた。
空は身を返すと、味もそっけもない病院のような白い天井を見ながら、この状況に早くなれるように気持ちを整理しようとした。
夕食ではこの施設に収容されている子供達が集まっての夕食だった。
見張りはいるものの、広い食堂で自由な席に腰かけ自由に話しをしながら食事をする。
千堂が一応紹介してくれたので、あいさつ程度はしたが、年齢層が広く逆に対応に困ってしまう感じだった。
おそらく、千堂が一番年上、一番年下では十歳いくか、いかないか。
明日は、千堂が言っていた山崎博士という人物に会わなければならないらしい。
ここにいることになるのかならないのか、それを最終的に決めるのは山崎博士らしい。
「……」
空の頭に、色々な事が浮かんでは消えた。
家の事、家族の事。
ここにいれば、家族は国から援助金が送られるのだから。
「とにかく明日だ」