第三七話……秘密の会合1
八月十八日。
「よお、遅くなったな」
夕食中、冴木からメモが回された。そこには時間と場所が指定され、千堂と空は二人で時間ちょうどにやってきた。
指定場所のホールにはすでにメンバーが揃っていた。二人はすでに出来上がった輪に立ったまま参加する。
「やっと来たわね」
神楽が千堂と空を見てから言った。
こんなに一同にメンバーが集まったのを空は初めて見ていた。唯一、鬼崎弥生の姿だけが見えなかった。
「それで? 用件はなんだ?」
一瞬静まり返る一同の中で聖がまず沈黙を破る。となりに座っていた夏美が何か言いた気に目を向けたが、彼はそんな彼女に見向きもしない。
「実は言いにくいんだけど……」
聖の言葉に答えたのは冴木だった。空は全員の視線が冴木に向いていることに気がついた。どうやら好き嫌いなど別にして、このメンバーのリーダー的な存在はやはり彼女なのだということを改めて知った。
彼女の表情に空は少し意外な感じもした。なんでも見透かしたような、達観したような独特の雰囲気だった彼女だが、今は迷いや不安が感じられる。彼は少しだけ、彼女に親近感を持った。
そんな顔もするんだな……。
「脱出を早めたいと思うの」
脱出。その一言は波紋のように広がり、一瞬遅れてメンバーはざわつき始めた。
それが何のことなのかわからなかったのは、空だけだった。
「なんで?」
「なんでこのタイミングなんだ?」
岡島と平田が声を上げる。
「お兄ちゃんが覚醒するまではない、って言ってたのに?」
冴木のそばに座っていた美奈が言った。
その言葉にメンバーの何人かが空の方に目を向ける。
「風見さん、覚醒したんですか?」
「……いや、まだ、だけど」
柏原の問いに空は首を振った。
「本当に?」
「覚醒しとったら隠しておくことはできんからな。嘘はついてないやろ」
藤本の問いを梶が否定する。確かに、もし覚醒していたならば、この研究所にいるかぎり隠すことは難しいだろう。
それをこのメンバー相手に隠すこともおそらくできはしない。
「まさかそういう気分だから、とかじゃないよな? ここを出るのは相当覚悟がいるぞ」
何度か脱走を試みている宮沼が口を開く。研究所敷地内には守衛団もいれば、セキュリティシステムも存在する。守衛団など実際の戦闘経験などないはずだが、そのレベルは高い。
宮沼は能力である『フィーリング』で先に相手の動きを察知しているにもかかわらず、その目を掻い潜っての逃亡は成功しなかった。
「もしかして、皐月ちゃんの予知とか?」
「ううん? 別にぃ、何もないよぉ。ここにこれから来る人はぁ、わかるけどぉ」
「……?」
微笑む日倉に沖田姉妹は顔を見合わせる。
まだ誰かくるの? と。
「まあまあ、一先ず話しを聞こうやないの。で、みんなで一斉逃亡するか?」
千堂が仕切る。
「そうね、できれば、計画通り……全員がいいわね」
「そっか、全員か」
冴木の答えに千堂は頭を掻いた。
計画? 全員?
空にわからない話が次々に展開されていく。
彼はただ、声を上げる者とその意見に対する冴木の反応を見比べるしかできなかった。
しかし、どんな意見や問いが出ても、冴木の意見は揺らがない。
「で、実行日はいつにする?」
「なるべく早く。三日以内にね」
「えっ!?」
突然の声に全員の視線はホールの入り口に向けられた。