第三五話……守衛団
「佐藤隊長が異動だって?」
「ああ、なんでも関口の管轄に入るらしい」
奥山は若い部下の会話に背中で聞きながら、地面に直に横になり体を休める。
現在、元佐藤部隊は研究所敷地内から外に出た旧高速道路跡で訓練と称した野営を張っていた。訓練と言えるほどの訓練もなく、ほとんど待機に近い。松原所長の命令ではあるが、隊員達は時間を持て余していた。
「……」
あのコンテナを運び出したあと、同行した守衛団はそれぞれ各所での留置を命じられたのだった。
奥山達はかわるがわる交代で、この地点に留まるという任務についている。
今まではこんなことはなかったのに。急にどうしたっていうんだ……?
「ひどい空だな。こりゃあ、今夜も蒸し暑くなりそうだな」
空を見上げながら、誰かがげんなりとして言った。
あの事件「ライトクリスマス」以降、空には暗雲が立ち込める日が増えていた。
雲と雨。
それが、気象の大半を占めている。
整備された道路はほとんど残らず、その修復にも手がつけられていない。普通の自動車が走るのは容易なことでないだろう。人々はもっぱら電車を使っているが、今でも本数の少なさとトラブルの多さが問題になっている。
ここら辺は、すでに忘れ去られた外界のようになっていた。
「関口さんとこか、あそこなら例え最前線で戦うにしたって行きたいね」
戦う、などという事はないのだが、ものの例えでそう言ったのだろう。奥山の後ろで笑い声が聞こえた。
「そうか? まあ、大高さんの所よりはいいだろうよ。あの人はすごいヒステリー
らしいからな」
男達の笑い声がまた聞こえた。
関口三尉か……。
奥山は心の中で呟いた。
いい噂は正直あまり聞かないが……確かに大高の所よりはマシだろう。
「……」
奥山は目を閉じる。
心配することはないさ。
奥山は脳裏に浮かんでは消える悪い予感をもみ消しながら、しばしの眠りについた。
「ん……」
唇か重ねられ、合わされた唇から舌が侵入していく。その行為を当然のように受け入れるとお互いを確かめ合うように絡みあった。
部隊から離れた物陰で、二つの人影は一つ影のようにお互いの体を支えあう。
部隊の野営場所からは地形的にも死角になり、二人を見ることはできない。
「隊長、いいのですか、佐藤のこと」
藤井は関口から唇を離すと、少し息をつくようになかば惚けながらそう切り出す。
「かまわないさ。佐藤の部隊は元々反政府の残党を引き取ったものだ。おそらく勢力分散が目的だろう」
関口の細い指先が藤井の胸元に伸び、服の中へと侵入していった。藤井は抵抗することもなくその関口の行為に声を漏らした。
なぜ今、佐藤を? 確かに、奴らの結束は固い。集めておけば独断で行動を起こすことも考えられるだろう。
それでもなぜだ? なぜ今頃?
関口の部隊は精鋭の集まりだ。もし戦闘が始まれば、間違いなく最前線へと送られることになるだろう。
何か、起きるのか……?
「ああ……」
「藤井……」
彼女は甘い声を漏らす藤井の首筋に顔を寄せ、彼女の匂いを楽しんだ。