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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第一章 集められた子供
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第二七話……岡島大地

「あと、二週間か……」


「なにが?」


 千堂の呟きに空が聞き返す。


「学校や」


「学校?」


 空は思わずオウム返した。


「学校と行っても、本物の学校じゃないけどな。研究員の中の有志で、俺らに勉強を教えるっていうのがあってな」


 普通の子供のようにという事と、子供達を子供として見る人間達による活動だが、必ずしも子供達全員に歓迎されているというわけでもない。とはいえ、それは少数派であるが。 


「一応、昔で言う高校クラスまではあるし、空も行くことになるな」


「そうか、って、高校って、あれって、お前もう十九って言ってなかったっけ?」


「うん、まあ、よくあるやつよ」


 千堂が言葉を濁したので、空は何となく彼の成績を予想することができた。


「ここに来る前に学校は?」


「ああ、小学生の頃は行ったな。中学からはあんまり行っていなかったな」


 空の住んでいた地域では何も珍しいことではなかった。

 一応に義務教育制度が生きているとは言っても、完全に機能しているかどうかというのは、その地域でかなりの差があった。

 空の住んでいたエリアでは、中学でクラス全員がそろうということの方が稀であり、下手をすれば、全員出席となるのは入学や卒業などの節目の時ということもあった。

 空などは妹もいたため、出席率は低かった。母の希望もあり、高校へは奨学金などで入学はしたが、中学よりもさらに出席率は低下していた。


「まあ、どちらにしろ、俺の後輩やな」


「そうだな」


 いまさらながら千堂の方が二つも年上なのだ。こんな所にいると、そんな感覚も薄れてしまってくる。


「それじゃあ、また」


 二人が通りかかると、扉が開いて調子のよい声で挨拶をする少年が現れた。

 年齢は十五歳ほどで、目が細く、漫画に出てくる愛想のいい商人のように腰を低くして何度も頭を下げている。


「あれ? 千堂さん」


「大地、相変わらずやな」


「千堂さんもここで?」


 岡島大地はさぐりを入れるように声を潜めながら言うと、空に気がつきニコニコと笑顔を向ける。


「こっちは空な、風見空」


「どうも」


「はい、こうしてお話するのは始めてですね、僕、岡島大地って言います」


 大地は右手をポケットの中に入れると中で何かを探る。わざとらしい、少し変な動作だ。

 すると、大地は空に左手をだし、手をクルリと返して見せる。すると、左手にいつの間にか手製の名刺が現れていた。


「!?」


「どうぞ、よろしく」


「大地、そのネタ、飽きたわ」


「ええ!?」


 千堂のツッコミにオーバーにリアクションする大地はやはり笑顔を崩さない。もしかしたら単にもともとそういう顔なのかもしれない、と空には思えた。


「見ての通り、こいつの能力は『テレポート』や。手の中にあるものを、もう片方の手に瞬間移動させるっていうものでな」


「初めてだったら結構ウケるんですけどねぇ」


「なるほどね」


 空は彼の手製の名刺を受け取り目を通す。そこには名前と謎の肩書き、そして部屋番号が書かれている。まさにこのネタを見せるだめだけに作られた名刺である。


「そう言えば、千堂さん、これからですか?」


「ああ、これからや」


 すると館内放送で千堂の名が呼ばれた。

 千堂の順番が来ているらしい。


「おう、いかなきゃならんな」


「はい。では、僕はこれで」


 大地は調子よく二人に別れを告げると、通路の向こうに消えていった。


「ずいぶん、明るい奴だな」


「それがあいつのいい所やな」


 そう言って千堂は機嫌よく実験場へ入っていった。


   ※


「もう少しかな……」


 溝口達也は高さ三十センチほどの木材の上に手を載せながら、ポツリと呟いた。


「今度はどこからもって来たんだ?」


「うん? ……そうだねぇ」


 溝口の部屋の入り口に寄りかかった宮沼誠一は声をかけてからノックした。

 溝口は振り返らないまま、首をかしげて「研究所の西側から来たみたいだ」

 溝口の能力『アナライズ』が木材を解析する。心を読む『リーディング』とは違い、物にしか作用することはない。目の見えない溝口にとっては何か重宝する力だった。

 この能力を使い、溝口は趣味である彫刻を行っている。


「今度は何ができそうなんだ?」


「まだ、わからないかな」


 実験体である彼らは、研究所から拘束を受ける分、ほしいものはある程度は融通される。もちろん、実験に影響がないものになるのはもちろんであるが。

 それらを利用する子供はあまり多くはないが、溝口は木材を入手している。

 彼の彫る彫刻は研究者たちの間でも人気があるため、出来上がり、飾っておくともらいてがすぐに決まってしまう。

 そのため、彼の部屋には今までの作品は一つも残っていなかった。


「そうか……おっ?」


 宮沼は部屋の椅子に座ると、何か気が付いたように反応する。


「この感じ。大地か、実験が終わったんだな」


 いい暇潰しの相手ができた。と彼は上機嫌に笑みを浮かべる。宮沼の能力『フィーリング』が大地の気配を察知する。


「へぇ、結構早かったね」


 溝口の言葉と同時に彼は姿を現した。


「お待たせ」


「待ってたぞ、大地」


 誠一は歓迎して座ったまま手を広げた。


「どうでもいいけど、ここは僕の部屋なんだから、ノックぐらいしてよね」


 溝口も歓迎しつつ、苦笑いする。


「ああ、そうだった。ごめんごめん」


 大地は少しも気にとめることなく笑いながら、ベッドに腰かける。


「で? どうだった?」


 宮沼がわざとらしく声をひそめる。部屋には三人しかいない。誠一の声は少し離れてはいるが、耳のいい溝口にももちろん聞こえている。 


「女だった。それも若いよ、二十代」


「おおっ!」


「その上、美人」


 大地の言葉に宮沼は興奮気味に声を上げた。


「ああ、いいなあ。俺も担当してくれないかなあ」


 にやにやと笑う大地に宮沼は羨ましげにため息をついた。

 つまらない実験の繰り返しだって、誰が担当するのかで変わってくるというものだ。


「うん?」


 不意に宮沼の『フィーリング』が何かを察知し、思わず笑みを浮かべる。


「どうしたん?」


「ネズミさ。中身はネズミじゃないみたいだけど」


「なるほど」


 宮沼の言葉に大地が頷く。


「藤本、いるんだろ?」


 宮沼の言葉に部屋の隅から一匹のネズミが顔を出した。


「またそんなのに憑依して」


 大地が呆れたように言った。

 藤本俊明は『ライド』という能力で、生物であれば何にでも意識を飛ばして憑依することができるのだ。

 今このネズミに藤本がいるのだとすれば、本体である藤本本人は自室のベッドで横になっていることだろう。

 ネズミは部屋に入ってくると、そのまま宮沼と大地の間に座った。どうやら話しに加わりたいようだ。


「それで、そろそろ話しを始めてよ」


 すっかり待たされてしまった部屋の主である溝口は、まるで目が見えていないという事など感じさせないような動きで、人数分のコーヒーを淹れる。


「そうだった、まず名前なんだけど……」


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