第二五話……思惑1
研究所屋上。ヘリポート。一機のヘリが風を降らせながら着陸した。
「お待ちしておりました」
黒スーツの体格のいい男が深々と頭を下げた。ヘリから男が降りる。
「ああ~、やっとついたかぁ。長かったなぁ。お、ごくろうさん、ところで所長は?」
彼はとぼけたような口調で、黒スーツの男に手を振って労う。黒スーツの男は緊張した面持ちで姿勢を正す。
「はい、所長室の方に」
「うん、そっか。行っても平気かな?」
「はい」
男は出迎えた男に背に所長室に足を向けた。
しばらく歩くと、そのフロアが今までの光景と違うことに気が付く。少し気をつけて見れば監視カメラの数が増え、防衛装置が点在している。もっとも、それに気が付く人間はごくわずかだろうとも思われた。
自動ドアを開け、男は広いデスクに腰かける男に一礼して声をかけた。
「お久しぶりです。松原所長」
「田谷か」
「新しいサンプルをもってきました」
松原に目を向けられ、田谷は持っていたアタッシュケースから分厚い資料を取り出し、内容を説明する。
「クリエ達のDNAで完全な複製を作ることは、現状では不可能だということがわかりました。マリアに至っては解析も不可能な状態です……」
「完全な複製を作ることはできない、か」
「ええ、クリエの場合なら、例えば動物とかけ合わせるなどして複製を作ることが可能……とのことです」
「使いこなせるのか?」
「コントロールのために、特殊なフィールド内でしか活動できないように操作してあります。もしもの時は一方的にこのフィールドを遮断することができます」
「ふむ」
松原はうなづくと大きな机に肘をつきながら、田谷の次の言葉を待った。
「それで、その実験をここでお願いしたい、というわけで」
「それは研究者の発案か?」
松原は表情一つ変えず田谷に鋭く瞳を向けている。
「ええ、ナイツの意向です」
「なるほど。実施に関する日時はこちらから連絡をすると伝えておいてくれ」
「わかりました」
田谷はまた形式的な礼をすると、必要な荷物をまとめて所長室をあとにした。
「いいのか? あんなことを言って」
松原の背後に隠れていた井原が姿を現し、ボソリと言った。
「問題はない。切り札はこちらにある」
松原は笑みを浮かべると、田谷の持ってきた資料をゴミ箱に投げ捨てた。
「しかし」
「少しくらいは利用されるふりもしなければならんだろう。利用するためにな」