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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第一章 集められた子供
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第二一話……西井美奈3

「ユキの言っていることがわかるか?」


「いや」


「けど美奈にはわかる」


 怪訝な顔をする空に、千堂は指を立てて左右に振ってみせる。


「それが美奈の能力なんよ」


「お姉ちゃんの言ってることならサヤだってわかるよ」


 空に抱きついていたサヤが振り向きながら胸を張る。


「やれやれ、これやから猫娘は」


「また猫娘って言った!」


 サヤはしっぽの毛を逆立てながら抗議するが、返ってその行為が千堂にバカにされることになる。


「いいか、猫娘とユキは言うなれば姉妹で猫同士。美奈は猫以外の動物とも話しができる」


「……ううぅ」


「わかったか、全然違うぞ」


 千堂は、んっ? と意地悪な笑みを浮かべるとぽんぽんとサヤ頭を撫でる。サヤは反論できずに空に助けをもとめる。


「千堂、あんまりいじめるなよ」


「おお、悪い悪い」


 空の言葉に千堂は軽く手を振った。


「そうだぞ、悪いぞ!」


「なんやて?」


 サヤが反論すると、今度は両手で彼女をつまみ変な顔する。変な顔にされたサヤはそれに負けじと、そのままの顔で威嚇した。


「やれやれ」


 空が美奈とユキに目をうつすとまだ何かを会話していた。話していることはわからない。ユキの言葉に美奈は人間の言葉で答えているため、不思議な感じである。

 やはり、どうみても猫を前で美奈が独り言を言っているようにしかみえない。

 しかし、それでお互い通じているように見える。空は美奈とユキのやりとりに意識を集中させてみたが、ユキの言葉はやはり猫の鳴き声にしか聞こえない。美奈と同じような能力を持ち合わせてはいないのだろう。

 しばらく話をすると、美奈は堪能したのか、話を終えた。ユキは疲れてしまったのか、すでに寝てしまっているが、美奈は充実していたのか未だに興奮気味に目を輝かせている。


「ユキのことは気にいったかい?」


「うんっ」


 美奈は元気よく答える。素直でまっすぐな視線に空は思わず妹を思い出す。

 しかし、すぐに浮かんでくる妹の顔や声を頭の隅の方に追いやった。ここにいる間は忘れると決めたのだ。家族のことを思い出すと不安とさみしさが解決策のない焦りに変わる。忘れるのでなくともできるだけ想い出さない方がいい。


「もし、なんだったら、ユキを連れて行くかい?」


 あんな楽しそうにしていたユキを見たのは初めてだった。ユキの知能は高い。言葉が使えない、通じないということが彼女のストレスなのは間違いない。


「ダメだよ、そんなの」


「?」


「そんな事いったら、ユキちゃん怒っちゃうんだから」


「……そう?」


「うん」


 美奈はユキの方に目を向ける。

 ユキは寝息を立てながら一定のリズムで上下させている。


「よかった」


 一体何がよかったのか、空にも千堂にもわからない。美奈とユキの話なのだろう。


「まあまあ、どうせユキを移動させるには上村の許可がいるし、サヤとユキが離れ離れはこまるやろ」


「うんうん」


 珍しく千堂の言葉にサヤが頷いている。

 空はそれもそうかと納得する。

 ユキはあまりそんな様子はないが、少なくともサヤはユキのそばに居たがる傾向にある。


「それじゃあ、今度は俺の話を……」


「いや、そろそろ時間やな」


「ええ?」


 言われてみれば、もう七時を回る。美奈は第一居住区に戻らねばならない。


「仕方ないか……」


 空は今度美奈に話を聞く約束をして、美奈を送ろうかと立ち上がると彼女は手を振って遠慮した。


「大丈夫だよ、それよりもまたユキちゃんに会いにきてもいい?」


「もちろん、歓迎するよ」


「ありがとう、じゃあね。お兄ちゃん」


「うん」


 美奈は一端寝ているユキにもあいさつしようかと思ったが、完全に寝ていたので諦め、手を振って出て行った。


   ※


 後日、約束通り美奈は空に話を聞かせてくれた。内容は、冴木鈴華がどんな人物であるのか、ということだ。

 しかし、彼女の答えは空が思うようなものではなかった。

 空や千堂が感じる違和感や威圧感のようなものは彼女は感じていなかった。

 それは彼女と一緒に遊んでいた男の子、小橋圭祐も、同じ歳くらいの西寺茜も同じように考えているのではないかとの事だった。


「あの男の子も能力者なのか」


「ああ、そうやね。確か、名前は忘れたけど、ものを引きよせる能力だったかな?」


 千堂は記憶を辿るが、あまり接点のない西寺と小林の能力を曖昧に説明する。


「ただ、能力の出力的には俺らの中でもトップレベルらしいけどな」


「見た目によらないって事か」


 気になることも言っていたけど……。

 空は美奈の言葉で気になることが頭の中で引っかかっていた。「お姉ちゃんね、時々すごく寂しそうな顔する時があるんだ」と。

 千堂は意外そうな顔をしていたが、空も同じ意見だった。空には彼女が自分と同じ歳か年下のように思えない。彼女が何かを知っているように思えてならなかった。


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