第十九話……猫の留守番
留守番を言い渡され暇をもてあますサヤは、扉の前で座り込み、ジッとドアノブを見つめている。
さっきまで部屋の中をウロウロと歩きまわっていたのだが、静かにしなさいと昼寝をしているユキに怒られてしまった。
ああ見えて、ユキは怒るととても怖い。
サヤにとってもっとも恐怖するものは姉の怒りなのだ。
「あっ」
言ってから思わず口を手で押さえ、サヤはユキの方を振り向いた。ピクッとユキの耳が跳ね上がる。跳ね上がった耳はゆっくりと塞がれていく。
よかった、起きなかった……。
サヤはフゥと胸を撫で下ろす。もうすぐ向こうには空が来ているのだ。
足音。歩幅。リズム。安心するこの感じは空のものだ。
同時に混じるあまり好きじゃない感じは千堂だ。空のとなりに千堂がいる。
けれど、どうやらもう一人いるようだ。
人? どんな人?
上村や高橋のような足音ではない。上村のような早足ではないし、高橋のような地面を擦るような足音でもない。
どんな人でもかまわない。
空がいれば、ユキの機嫌はよくなるし、何より遊んでくれる。
サヤは、もう自分のしっぽでじゃれて遊ぶことにも飽きてしまった。
もう少し。もう少し。
背の高い千堂の姿が見える。
千堂がいる時は、空が遊んでくれなくなるのであまり好きじゃない。それに「猫娘」と言ってバカにする。
サヤは一人で思い出して、一人でぷりぷりと怒った。
うん? もう一人は……初めて見る子だ。
だから足音に心当たりがなかったのかとサヤは納得する。
背は空よりもずっと低い。もしかしたら、自分よりも小さな子かもしれない。
髪が長く背中まで伸びている。
ガチャ。
「おかえりなさい!」
ドアが開いた瞬間、サヤは空に勢いよく体ごと飛びついた。