第十八話……西井美奈1
食事を終えた順に席を立っていく子供達を見ながら、空達も席を立とうとした時、不器用な手つきで箸を使う小さな女の子に目が行った。
あの子……。
この前、冴木に会いにいった時に遊んでいた女の子だ。ここで食事をしているという事は彼女もやはり能力者なのだろう。
とっさに一緒に遊んでいた男の子の姿も探したが見当たらなかった。
「千堂、あの子だけど……」
「あの子? 美奈の事か?」
「美奈?」
「西井美奈、だったと思う。あんまり接点ないから記憶があやふやだけど、たぶんそんな名前だったと思う。最年少女子やね」
最年少。確かに、西井美奈は他のメンバーに比べるとかなり幼い。まだ小学校にも上がる前かもしれない。
千堂は冴木のことを警戒していたがあの子はどう思っているのだろう。
美奈は箸を使うのが苦手なのか、手から箸が逃げそうになるのを必死にバランスを取りながら遅い食事をしている。
何度も掴んだものを皿の上に落としているが、遊んでいるわけではないということは、彼女の真剣な表情からも察することができる。
空が近づいていくと、彼女は食べる手を止め、すぐに空に気がついた。
「あ、この前の人」
近づいてみると、さらに幼い感じがする。座っている椅子は足が下に届かずブラブラと揺らしていた。
美奈は慌ててそばにあったティッシュを取ろうと手を伸ばす。しかし、彼女の手
ではもう少しの所で届かない。
「うーん!」
「?」
かわりに空がとって渡してやる。
「わあ、ありがとう」
美奈は受け取ったティッシュで口のまわりを拭う。空が近づいてきて、口のまわりが汚れていることが気になったようだ。彼女は口を拭いたあとニコッと笑ってみせた。
「……あのさ」
「あっ!」
美奈が警戒しないように注意を払いながら切り出そうとした瞬間、美奈が突然声を上げる。その視線は間違いなく空の方向に向けられていたが、空のことは見ていない。
「その毛……」
「……毛?」
美奈の視線を追っていくと、確かに空の上着にもズボンにも細くて白い、ユキの毛だ。
「犬? 猫?」
「一応……猫かな」
これがユキの毛であることは間違いないのだが、ユキがあまりにも猫らしくない猫のためつい「一応」と付け加えてしまった。
言葉の理解や解釈、感情なども人間に近いものを持っているように思える。夜寝るときなど、サヤは空のベッドに入ってくるが、ユキは恥ずかしがって入ってくることはない。
恥ずかしがっているということをサヤにバラされた時の怒り方など見ていると、空はユキを猫のように思えなくなってしまう。
とはいえ、聴覚や視力などは猫そのものに近といえるだろう。
「猫飼ってるの?」
「飼ってるわけじゃないけど……部屋にはいるよ」
「本当!?」
予想以上に目を輝かせる美奈に空は押され気味になりながら「うん、白いのがね」とユキのことを紹介した。
「猫、見てみたいな」
「ああ、いいよ。見に来ても、そのかわり俺も聞きたいことがあるんだけど」
「本当! 行く、絶対行く!」
「う、うん」
美奈の勢いに、聞きたい事があるという部分をちゃんと聞いてくれたのか不安に思ったが、空は一先ず彼女を部屋へと案内することになった。
「やれやれ。じゃあ、時間ないことだし、はよいこか」
やりとりを聞いていた千堂は面倒くさそうに美奈の食器を片付け、美奈と空を促した。