第十七話……谷沢浩
確かに、フォークがテーブルに刺さったままだ。まるで最初からそういう物であったかのようにテーブルの一部になっている。
「『スルー』って名がつけられる能力でな、手品とかで見た事あるやろ? ビンの中のコインが出てくるとか、中に入れるとか、そんな感じのやつ。それをあいつはタネなしでできるんよ」
「なるほど」
感情を読み取るとか、傷を治すとか、そう言ったものと比べるとずいぶんと毛色の違う能力のように思えた。
空はあんな能力が自分にもあるのかと思うと、やはり不思議な感じがしてきてしまう。
「あんな感じの能力が多いのか?」
「あんな? うん、まあ、あの二人はコントロールされているよな」
「コントロール?」
空の意図した部分とは違ったところを汲み取ったのか、千堂は白い手袋をした利発そうな少女に目を向けて言った。
「あいつ、神楽っていうんやけど、手袋してるやろ?」
「ああ」
「触れたものから情報を読み取る能力。けど、自分ではコントロールは不能だから
手袋してるってわけ」
「……」
記憶を辿れば、彼女は何度か見かけたことがあったが、確かにいつも手袋をしていた。
コントロールできるものとそうでないものがあるって事か……。
ここには来ていないが、鬼崎弥生の能力はコントロールできないものだった。
逆に冴木は能力をコントロールしている感があったが、空にはその違いが何なのかはよくわからない。
「自分の能力の事が気になるんやろ? 覚醒前だしな。けどな、不思議な話なんやけど、似ている能力ってのはいても、同じ能力っていないんや」
そう言ったあとで、千堂は「ああ」と思い出したように付け加えた。
「双子の沖田姉妹ってのがいるけど、『テレパシー』は同じって言ったら同じか。まあ、二人の間でしか交信できないみたいやけど」
「『テレパシー』ね……」
さすがの空もそれぐらいは聞いたことがある。言葉を交わさなくとも意思疎通ができるという能力だ。
「おい、谷」
「あっ、はい」
千堂に声を向けられた少年、谷沢浩は戸惑ったようすで千堂の方に振り向いた。
メガネをかけた華奢な少年だ。空よりもいくつか歳下に見えたが、それは色白で小柄な彼の体格のせいかもしれなかった。
「上村さん来るとうるさいから、梶のフォークはとっておいてな」
「はい」
千堂はわざわざ梶の座っていた席から離れた所に座っていた谷に声をかけた事に空は不思議に思った。
谷沢は梶のフォークに近づくと造作もなく、それを引き抜いた。
しかもただ引き抜いただけでなく、音もなく、またフォークにもテーブルにも少しも傷はついていない。
「梶は外から中へ、谷は中から外へ出すことができるんよ。まあ、同じ『スルー』って事になってことらしい」
「なるほど」
同じ名前だけど、作用が違う。という事か?
空はまるで鮮やかな手品でも見ているかのように感心した。
「さあはよ食べよ。サヤが待ってるんやろ?」
「そうだな」
サヤは今まで人間というよりは猫として扱われてきたので食堂で食事というわけにもいかない。サヤ自身が落ち着いて食事できないのである。
それにユキは猫が食事をするように皿の上に盛られた食事を直接口をつけて食べているだが、サヤもそれに習った食べ方をしているのだ。
少しづつ慣らしていかないといけないよな。
空は使っていないフォークをポケットの中に忍ばせた。