第十六話……星河一馬と梶亮介
「現在の状況ではまだ……」
「新しく入った彼は?」
「それもまだ、覚醒前。潜在能力は高いものと思われます」
「覚醒前か、ならば計画には……」
「確かに、予定前の覚醒には間に合わないかと。今のまま実行するならば、計画中に覚醒するか、もしくはしないか……」
「どうする?」
「どうします?」
「計画は予定通りだ。すでに十分なデータも材料も揃っている」
「今さら、一人欠けた所で問題はない、か」
「わかりました」
結論が出た。そこにいた全員が息を合わせたように席から立った。
「なんだと!」
ガタンと立った勢いで椅子が転がり、まだ声変わりもしない少年の怒声が響く。
夕食時。今日は普段よりも食堂に来た人間が多かった。子供達は自由におしゃべりをしながら食事をしていた。
それも彼の声によって静まり返る。
「そら、どういう……!」
出身は関西か。関西弁であるが、千堂とは違い、関西弁を標準語にあわせようとしているような印象を受けるイントネーションだ。
空は一番端の席から離れた彼の方へ目を向ける。
細身の顔立ちに、何か格闘技でもやっていたかのような引き締まった体格をした少年だった。
「梶亮介、年齢は今年十五くらいやったか」
となりに座っていた千堂が空に耳打ちする。
その名前は先日、上村からも聞いていた。関西弁をしゃべるのは千堂と梶ぐらいだと聞いていたので印象に残っていた。
どうやら、隣に座っている奴と何かあったらしい。
全員の視線が梶とその隣に座っている少年に向けられている。
「一馬、立てこら!」
「本当のことを言ったまでだろ」
挑発されてもそれ以上には乗らない。一馬と呼ばれた少年は立つこともない。
「あっちは星河一馬って言うんやけど、梶と同じ歳だったはずやな。あいつら何かと衝突するんよ」
千堂はやれやれと頭を掻いた。どうやら、彼らのケンカはいつもの事らしい。
梶は顔を引きつらせると星河の胸座を掴もうと手を伸ばす。しかし、梶の手は星河の体に近づいた瞬間、何かに弾かれたように勢いよく振り上げられた。
「……?」
なんだ? ずいぶん不自然な動き?
「このやろうっ!」
梶は手を振り上げたのではない。手が弾かれ跳ね上げられたのだ。
「今の……」
「『リフレクション』って言ったかな。自分に向かってくる力を弾くっていうな」
「無意味な事はやめろよ。俺の能力知ってんだろ?」
星河は席を立つと梶に背を向けると、そのまま食堂を出て行ってしまった。
例え、背を向けたとしても星河を殴ることも触れることもできない。
「くそっ!」
梶はテーブルにあった自分のフォークを握り締めると思いっきりテーブルに先端から叩きつけた。
「!?」
スッ……。とフォークはテーブルを貫通し、握っていた梶の手がテーブルを叩いていた。
「チッ!」
梶は舌打ちすると星河とは別のドアから食堂をあとにした。
二人が出て行き、しばらく張り詰めた空気が漂っていたが、やがて誰となく話し始めると先ほどのように食堂が賑わった。
「殴りあいにならなくてよかったな」
空が千堂に言う。
女の子も小さな子もいる。あの程度で済んだのなら、平和的解決したという事だろう。
「まあ、そんな見方もあるなぁ。けど、殴り合いでもしたら、何かが変わる可能性もあると思うけどな。まあ、それよか、あれを何とかせんとな」
千堂は口に運んでいた箸を、梶の刺したフォークに向けながら言った。