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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第七章 母なるもの
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第百六十二話……母なるもの11

 冴木は幼い日の記憶の中で、母親と話す人物をフラッシュバックのように思い出していた。言い争いをする母と女。冴木は幼心に怯えながらその光景を見つめていた。

 その内容は定かではない。しかし、これだけは確実に覚えている。あの女がもし、あの時の女であれば、妹を連れ去ったのは、山崎ということになることだ。

「……でも、あの姿は何なの?」

 山崎の姿は変貌を続け、やがてどこにも黒い部分のない全く真っ白なクリエになった。

 その速度は速く、体躯は強靱にして軟体動物を思わせるほど柔らかく、しなやかだった。

 山崎は雄叫びを上げながら、右腕の鞭を槍のように尖らせ、無数に刺突を繰り返した。

 空は壁を背に必死に避けるが、避けたあとの壁には蜂の巣のようにいくつもの穴が開いていく。

 完全に姿が安定した山崎は速度も力も先ほどの比ではない。避けることだけに全神経を集中させなければ、一撃のもとに串刺しにされてしまいそうだ。 

 ふいに山崎の右腕が壁を貫くと、突然、攻撃を回避した空を割り込むように壁から先端が飛び出した。

「しまった!?」

 山崎の腕が空に巻きつき、空は完全に捕えられた。少しでも逃げようと山崎の腕の中で暴れたが、白い鞭腕はビクともしない。

 筋肉の塊。

 巨大な蛇に巻きつかれたような感覚に、空は鳥肌がたった。それと同時に、頭の中に何かが流れ込んでくる。

 ……!? 光……山崎……誰だ、あの子は……?

 色々な情報が、光景が、感情が押し寄せてくる。

 これは、山崎なのか?

 山崎はライトクリスマス以前、すでに研究者としてある程度の地位を確立していた。

 彼女は謎の光の飛来の件にも初期の頃から松原博士率いるチームに関わっていた。

 飛来した光にはそもそも意志のようなものがあり、単なる物質ではなかった。

 松原、井原などはじめとしたチームのメンバーはこの意志を持つ飛来物との遭遇をクーリエ・コンタクトと呼ぶようになった。

 彼らははこの光、クーリエと交渉しつつ、彼らを利用しようと考えた。

 しかし、それはクーリエの意志にそうものではなかった。間もなくクーリエは研究者達のもとを離れ、各地へと旅立って行った。

 この時、仲間は重症を負い、そして彼女だけが奇跡的に無事だった。

 重大な光の秘密を知る者は自分だけ、この状況で動けるのはたった一人。

 この瞬間、彼女は何か運命的なものを感じ取った。そして彼女の計画は始まった。

 彼女は、彼らを救う事とクーリエの捜索に奔走し、幸運なことに各地に散ったクーリエの内、二つを手にすることができた。

 彼女は早速、その一つをつかい人間の卵子との融合を試みる。しかし、これは、うまくいかなかった。卵子との結合はしてもそれ以上の変化が起きない。

 幾多の失敗に失意の中、山崎は能力者の子を持つ母親発見の報を聞く。

 彼女はすぐさまその母娘に会いに行った。それが冴木鈴華の母、冴木美花だった。

 山崎は考えた。クーリエが受け入れたこの女ならばもしかしたら使えるかもしれない、と。そしてあらゆる手段を用い、山崎は冴木美花に二人目のクーリエを妊娠させることに成功し、その経過も順調であることを知る。

 この経験から、卵子と結合したクーリエの変化が止まってしまうのは結合後の環境が問題なのではないかと思い始めた。

 しかし、長く実験していたために、クーリエは弱り、その大きさも随分と小さくなっていた。新たな人間を探すほどの時間もないと判断した彼女は咄嗟に自分の飼い猫の体内に定着させることを試み、成功させたのだった。


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