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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第七章 母なるもの
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第百六十一話……母なるもの10

「ちっ……」

 山崎は舌打ちした。

 能力は一人一つ。複数持つ個体はクリエとマリアだけ。その中で完全な人間の形を維持し、生殖機能を保持しているのはマリアのみ。風見空が人間の姿を維持したまま複数の能力を操ることなどありえない。

 もしあるとすれば、今までに発見されていない新たな何か。考えつくのはあの時失われた「槍」しかない。

「あの子は、花織って言って、私の妹で……」

「ああ。あの子を連れて帰るためにここまで来たのか……」

 冴木の言葉が終わらない内に、空は納得したように頷いた。空が眠ったままの花織に目を向けるようとした瞬間、山崎は空に向かい発砲した。

 空に向けて放たれた銃弾は空と冴木を避け、明後日の方向へ弾かれ庭園を形取る内壁へと着弾した。

 今度は『リフレクション』? 

 冴木は瞠目して空と山崎を交互に見た。

 引き金を引く山崎の手は止まらない。銃弾が弾かれることは明白なのに、山崎は込められた銃弾を撃ちきった。

「やはり銃では無理か」

「……? 山崎、あんたは?」

 幽鬼のように立つ、山崎は役目を終えた銃を手から落とすと、突然空に向かい疾駆した。

「えっ!?」

「冴木離れろ!」

 言うが早いか、山崎の拳が空を襲う。

 その動きはまるで部屋に籠もり研究に明け暮れていた者とは思えない。均整のとれた細身の体躯が鞭のようにしなり、細腕が唸りを上げた。

 空は慌てて冴木を別の方向に突き飛ばすと自身も身を翻した。山崎の小柄な拳は地面に叩き付けられると盛大に土煙を上げた。

「くっ!?」

 空は山崎から離れながら蒼い炎を手に出現さ立て続けに投げ放つ。

 炎は砲弾のように勢いよく空の手を離れると山崎に肉迫する。が、それも山崎に触れる瞬間に消失した。

 何? どういう事?

 冴木はその光景を見ながら頭がすっかり混乱した。山崎の動き、地面を割るような怪力、それに何より、空が投げつけた炎の消失。

 これはまるで…… 

「山崎、あんたも力が?」

「答える必要がある?」

 山崎は笑うでも怒るでもなく、ただ鉄仮面のように無表情のまま、右腕で撒き上がった土煙を薙ぎ払った。その右腕は白く変色し、肘から先が異様な長さに伸びていた。それはまるで極太の鞭。

「その腕!?」

「……あいつらが考えたにしては、面白いデザインね」

 その腕は、両腕を鞭にしたあの巨人の腕を彷彿とさせる。違いと言えば、サイズと腕以外の部位が山崎だということぐらいだ。

 山崎がまた地を蹴った。

「くっ!」

 空も薄々感づいていた。冴木の心を読むことで彼女の妹である花織の事を知ることができたにも関わらず、山崎の方は心の声が聞こえなかった。そして、炎が山崎の前で消えた事からも考えられることは一つ。

「能力がある、しかも一つじゃない。それに、その動きと力……」

 まるでクリエ。

「風見空、お前は邪魔だ。なぜ、ここにやってきた? なぜ、研究所にやってきた? 私の計画にお前は必要ない!」

 苛烈な鞭打と鋼のような鞭先での刺突の応酬を、空はひたすら避け続けた。

 くっ!

 まだ能力を手にしたばかりの空には能力のコントロールと活用方法が理解できていない。平田の『ストップモーション』で回避こそできているが、それもぎりぎりで避けられるほどの速度でしか視ることができない。

 避けるのもギリギリで攻撃手段はないって。しかも、このこいつの力は!?。

 単純な腕力や速度は山崎の方がはるかに上回る。単純な殴り合いをすれば、空が勝つ見込みはない。

 一方で山崎もイラつきを隠せないでいた。

 もっとだ、もっと、速度とも力がいる!

 その感情が能力をブレさせる。

 山崎の姿が腕を振るうごとに変貌していく。二十代にしか見えなかったその顔は急速に歳をとり、それとは不釣り合いに腕も足も太く白く変化を見せる。

 バランスを欠くのそ異様な変化は思わず視線を反らしたくなるような醜悪さを醸し出していた。そんな移り変わりの中、年老いたような彼女の顔に冴木は目を奪われていた。

 山崎の顔が記憶の中で一致する。

 ……あの顔は!?


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