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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第七章 母なるもの
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第百五十九話……母なるもの8

「でも、同じ姉妹だとは思えないわ……マリアには遠く及ばない」

「……あなたは一体?」

「私は清算をしにきた。すべて終えて、新しい舞台を用意するために。その舞台にはあなた達のような不完全で醜い存在はいてはならない」

 山崎の穏やかな口調の中に執念のような強い意志が宿っていた。まるで、それが自分の使命であるかのように。

「清算だか何だか知らないけど、そんなものはあなた一人で勝手にやればいい。私は妹を連れて帰る」

 ここに立ちふさがるのが誰であろうと、それは変わらない。

 冴木は山崎と花織に向かい、大股に歩き出した。

 私はそのためにここに来たのだから。

 そのために研究所で生活し、独自に調査し、長い時をかけて地下施設で眠っていた妹の居場所を探し当てた。

 生きていることが確認できた時、どれほど嬉しかったかわからない。

 眠りつづける彼女と会話をかわすことはできなかったが、冴木は自分の能力の特性から妹が生きていることを知った。

 問題はどうやって連れ出すかだった。

 研究所から出ることは難しい。それも、勝手のわからない妹を連れて逃げるとすればなおさらだった。冴木はひたすら機会を待ち続けた。そして、ついにこの時が来た。

 目の前に妹はいる。もう研究所もない。あとは連れて帰るだけ。

「言ったでしょう? 醜いあなたのいる場所ははないのよ」

「!?」

 山崎は銃を取り出した瞬間、間髪入れずに引き金を数度引いた。冴木は山崎の手の動きに反応して身を翻そうとしたが、一歩遅かった。空になった薬莢が庭園の草の上に音もなく落下する。

「っ!」

 銃弾は冴木の両腿に二発、脇腹に一発命中し貫通した。

 彼女は上半身の重みを支える力を失い、膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。

 冴木は一瞬何が起きたのかわからなかった。何故自分が膝をついているのか、意識だけは前に進んでいる違和感に、自分の赤く染まった足を見た。

「!? ああっ!?」

 それを見た瞬間、痛みが脳に飛び込んでくる。冴木は遅れてやってきた激痛に声を上げた。錯乱する彼女とは裏腹に傷口はすでに再生を始めていた。血液が泡立ち、捲れた肉が元の形にかえろうと蠢き出す。

「あああっ!」

 しかし、回復するからと言って、その過程で痛みがなくなるわけではない。傷口が蠢くことで痛みを伴い、能力の使用と外傷による出血で体力が奪われていく。

「回復速度が遅い? ここに来るまでに誰かを回復させたのね、それもかなり重症な状態だった……」

 ……山崎は研究所で何事もなく行われるごく普通の実験結果を見るような退屈そうな目で見下ろしていた。。

「それにしても、相変わらず気持ちの悪い能力ね。あなたの『ヒーリング』が一番化け物じみているわ」

 その声には嫌悪感が滲ませながら、今度は冴木の右肩を撃った。その衝撃に冴木は無様に転がった。

「!?」

「ふふっ、研究所じゃあこんな実験できなかったものね」

 くっ……。

 冴木は呻きながら身をよじることも出来ず、芝の上で完全にまな板の上の鯉となった。

 感覚のすべてを痛みが支配し、意識の集中が途切れると回復速度がさらに落ちていく。 

 最初に撃たれた腿の出血がやっと止まった頃、今度は左肩を撃ち抜かれた。

「即死でなければ回復するのかしら?」

 !?

 山崎は思いつきに、冴木はヒヤリとした。感情が欠落した研究者特有の冷ややかな視線に見下ろされ、冴木は僅かにでも動こうと意識を働かせる。

 う、動いて動いて! どこでもいいから、動いて!

 山崎は銃口を冴木の体の各部分に向けていく。肝臓、腎臓、心臓、肺、どこも至近距離で撃たれれば致命傷は必死である。

 冴木も『ヒーリング』で自分の怪我を治したことぐらいはある。ただその限界がどれほどなのかはということは自分でも見当がつかない。

 次の弾が来る。その焦りが遅くなった回復をさらに遅らせる。

 焦っちゃだめだ……体さえ、動けば……! 

 体さえ動けば、相手は体格もそれほど変わらない山崎だ。何とかならないはずがない。

 次はどこを撃つ気?

 山崎と冴木の距離は数メートルもない。

 この距離ならば、狙った部位に正確に当てることができるはずだ。どこを狙うかさえわかれば、そこだけ避けるようにすればいい。

 冴木は僅かに動きを取り戻し始めた足の感覚をひそかに確かめる。

 行ける、行けるはず! 行くしかないんだ、無理でも行く!

 山崎が撃った瞬間、その隙をつく。

 冴木は覚悟を決めた。

「……マリアに似て綺麗な顔ね、気にいらないわ。その顔にしましょうか」

「……!?」

 銃口は冴木の頭に向けられた。

「どうなるのか、結果が楽しみね」


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