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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第七章 母なるもの
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第百五十七話……母なるもの6

「ライトクリスマスをきっかけとして科学者達の脳を使い造られたのが保守派ナイツ」

 田谷はタバコの煙を吐き出しながら、すでに破壊されたナイツの残骸に腰かけ語り始めていた。不破は保守派本部での出来事を思い出した。人の脳が浮かぶ水槽。それは死んだはずの科学者達のものだった。

「そして、ここに彼らのバックアップを作った。それが推進派ナイツというわけです」

「バックアップ?」

「つまり一つはオリジナル、もう一つは彼らの思考や情報を記憶させたコピー。ふふ、まあだから、もとはどちらも同じ人格というわけです。そして各々活動を開始し、片方はクローンまでつくり出していたのです」

「クローン……もしかして……」

 不破は研究所で出会った松原所長の姿を思い出す。その光景を思い出すといつも副所長の井原がそばにいたことが思い出された。

「そう、彼もメンバーの一人です」

「そうだったのか……」

「世界を混乱に落としれた惨劇のあとで人材が不足していたことと、彼らは自分達が知りえた核心的な情報の拡散を極端に嫌っていた。外部へは最低限に留めておきたかった。それにはこの方法が都合がよかったのです。そして二つのナイツができた」

「……でも……」

 同じ人格にも関わらず両者の考えには相違があった。それに、バックアップだというのなら、なぜ同時に存在させる理由がある?

 不破の不可解だという顔色を組み取り、田谷は独り言のように言った。

「脳だけになったと言っても、人間は人間、時が経つにつれてその考えに変化が現れる。コンピュータの方は更新されなければ過去の思考を引きづる事になる。両者は顔も見えない相手を別の組織だと思いながら対立しあった」

「そこまで彼らがこだわる理由はなに? 飛来した光って一体何なの?」

 自分を造り出した存在とはいえ、ナイツの存在は異常だ。不破は嫌悪感を覚えずにはいられない。

「光とは、可能性……と言ったところですか、どこからか零れ落ちた人間に可能性を与えるもの……閉塞した人類に変化をもたらすもの、ですかね。日本に集められた十二の謎の光源は二十四に別れて各地に散り、当時十代の少女達の体に宿った」

「宿ったって?」

「そのままの意味です。彼女らは成長すると、ある時突然妊娠し彼らを生んだ。差し詰め、処女懐胎と言ったところですかね」

 淡々と言う田谷に不破は目を丸くする。

「それが、あの子達?」

「ええ、そうです。だから、彼らの家族関係には父親がいなかったでしょう? 居たとしても、それは彼らを生んだあとに結婚しているというのが数例あるだけ。つまり実の父親ではない」

 田谷は短くなったタバコを床に押し付けて火を消すと、新たなタバコを口にくわえる。不破にも勧めたが、彼女は手を振って断った。

「体を失わなかった科学者は各地に飛んだ光の行方を追った。そして、探索するなかでこの事実を知り、同時にまだ母胎を見つけていない光源を手に入れることに成功した」

 田谷はタバコに火をつけると一度だけ吸い込み、そのあとは右手で持って灰を落とした。

「科学者はその光を仲間の所に持ち帰り、あらゆる角度から研究した。そして、その特性を理解する」

「特性?」

「ええ、謎の光源は、生物、特に哺乳類との親和性が高かったのです。そこで光を少しづつ使い、あらゆる哺乳類との融合実験がされた。その過程であらゆるものが造られた。クリエもその一つ推進派はこれを終着点と考え、利用しようとしました。しかし、保守派より精度の高い完成品を求めた結果、自然に近い形での培養がもっともよいと考えた。その結果、奇跡的に誕生したのがマリアだった」

「なるほど、クリエを利用しようとするなら、それを上回るマリアの存在は危険、マリアをベースに考えるなら、マリアを守らなければならない……」

「そしてナイツが対立している方が都合もよかった」

「……?」

「では仕上げに出かけるとしましょうか」

「仕上げ? まだどこか行くの?」

 田谷の言葉に驚いたように不破は顔を上げた。すると田谷は「ええ、すでに造られたクリエとそのデータの破壊にね」とこともなげに言い放つ。

「……!?」

 ほとんど吸っていないタバコを投げ捨て立ち上がると、不破にいつもの笑顔を向けて肩をすくめてみせた。

「これが終われば私達は自由です。すでに許可も頂いています」

「きょ、許可? 一体誰の許可を得たの?」

 戸惑う不破を後目に田谷はついてこいと言いたげに部屋を出ていこうとする。不破は慌ててそのあとを追った。

 彼女はあの部屋を少し離れた所から、一度だけ振り返った。入口は不気味に口を開け、まるですべてが終わってしまったことを告げているかのようだった。

「私達の創造主に。……もっとも私達の存在など、すでどうでもよいことでしょうけどね。保険をかけたようなものです」

 そう、取引とは言い難い……私達も、クリエも、そしてナイツも礎に過ぎない。清算の対象にならないように先手を打ったが、それも気分で覆るだろう。

 利用される戦力は味方の内に削っておく方がいい。そして、あとはひたすら逃げるだけ。

 田谷はそう思いながら頭をかく。

「あとは彼らに頑張ってもらうしかないですねぇ……私達の未来のためにも……」


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