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二十五人目の空  作者: 紫生サラ
第七章 母なるもの
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第百五十五話……母なるもの4

「鈴っ!」

 抱いたユキの体から流れた命がサヤの服を赤く染める。サヤは体温を失っていく姉にまた泣きそうになった。もはや一刻の猶予もない。

「わかっている! ここよ!」

 前を走っていた冴木は見つけた部屋に飛び込んだ。そこはおそらく過去には談話室にでも使われてのだろう古ぼけたソファが幾つかおかれていた。

 冴木はユキをソファの上に寝かせるように指示をするとサヤはそれに従い、姉の体を比較的綺麗場所を選んで横たえた。

 ユキの傷はひどかった。

 小さな彼女の体を小口径であるとはいえ、至近距離から撃たれたのである。撃たれのが腹部であったからとはいえ、即死でなかったのは幸運としか言えなかった。

 冴木はすぐさま袖をまくると、意識を集中させ、ユキの体に手をかざした。すると、彼女の手から柔らかな光が放たれ『ヒーリング』が始まった。

 弾丸により破壊された組織がその部分だけ命を持った生物のかのように蠢き、再生していく。

 傷さえ塞がれば……。

 幸いにして弾は貫通し、ユキの体の中には残っていなかった。

 出血さえ止まれば……。

 冴木は額に玉のような汗が吹き出す。

 脳裏のどこかで先へ進みたいという衝動が冴木は焦らせる。冴木はそれを無理やり、頭の隅に見えないように押し込んだ。

 ふと、視線を上げると祈るように自分とユキを見つめるサヤの姿が飛び込んできた。

 サヤ……。

 サヤの姿に衝動は何かにかき消されるようにどこかへと姿を消していった。

 ……。

「お姉ちゃん、がんばって……!」 

「ええ……」

「?」

 サヤの呟きの冴木が答え、サヤは思わず顔を上げた。冴木は苦笑いして「いえ、何でもないわ。サヤ、ユキの手を握ってあげて」そう言った。

「う、うん」

 冴木に促され、サヤは姉の手を両手で握る。姉の小さな手はいつも以上に小さく感じる。

 冴木の『ヒーリング』の効果により、ユキの出血は減少していた。毛並こそ赤く汚れたままではあるが、傷口はほぼ塞がっている。だが、回復してきているにも関わらず、ユキの目はうつろで、呼吸も浅いまま。

「……」

 どれほどその状態がつづいたのか。サヤはやけに時間が長く感じられた。

 ゆっくりと冴木が『ヒーリング』の手を止める。光が納まり、集中が切れた瞬間、ドッと疲労が体にのしかかる。彼女は思わず床に手をついた。

「鈴、大丈夫?」

「ええ、大丈夫……傷は回復しているわ。あとはユキの体力次第よ」

「体力次第?」

「そう、休ませなきゃならないわ。サヤ、あなたはここでユキを看てあげて」

「す、鈴は?」

「ここから先は、私一人でいく。終わったら、迎えにくるわ」

 冴木はフラつきながら立ち上がった。

「う、うん」

 サヤは言われるまま頷くと、浅く呼吸を繰り返す姉を見た。意識は戻らないが、先ほどよりも落ち着いたようにも見える。

 今は動かすことができないという事も、そして冴木が行かなければならない事も理解できる。

「私、お姉ちゃんと待ってるから」

「ええ、できるだけすぐに戻るから」

 冴木はふと空がやっていたようにサヤの頭を撫でた。サヤはもう一度頷いた。

「行ってくるわ」

 冴木は一人、再び走り出した。


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